Music of Frontier
…と、言っても。

俺の手元まで届けられるのは、優しいファンレターだけだ。

応援してます!とか、頑張ってください!とか、大好きです!とか。

そういう嬉しいことしか書いていない手紙だけが、俺の手元まで運ばれてくる。

俺は目にしていないが、嬉しくないことを書いてくる手厳しいファンの方も、大勢いることだろう。

事務所に届いたファンレターは、必ずユーリアナさんを始めとした事務所スタッフの方が、一度検閲している。

そして、俺に見せても大丈夫なものだけを、俺に渡してくれているのである。

そうでなきゃ、俺宛のファンレターは酷い有り様だと思うぞ。

総数だけなら、多分この五倍はあるだろうが。

中身は悲惨だ。

それこそyourtubeのアンチコメを凌ぐ勢いで、俺への罵詈雑言が書き連ねてあるはずだ。

俺としては…そういう手紙も、届けてもらって全然構わない。

情け容赦のないアンチコメこそが、俺に与えられる唯一のお叱りであり、自己批判の糧となるのだから。

そもそも最近、『frontier』は上手く行き過ぎている。

ちょっとしたスパイスと言うか…。お灸を据えられるくらいで丁度良い。

それにな、俺への罵詈雑言なんて、あの思い出したくない学校生活の中で、既に一生ぶんもらってるんだよ。

今更「キモい死ね人間のクズ野郎が」くらいの悪口じゃ、俺にとってはそよ風のようなもの。

右から左へ、すーっと受け流す自信がある。

大体、ファンレターじゃなくても、yourtubeを開けばいくらでも俺達へのアンチコメはあるし。

匿名のチャットサイトを覗けば、『frontierって最近調子乗っててキモくね?』みたいなコメントは山ほどある。

あぁ、うん。まぁそう言う人はたくさんいるよね。

ネットでは既にあれこれ言われてるんだから、今更アンチレターだけでどうということはない。

…のだが、事務所の規定で、アンチなファンレターは本人には渡さないことになっているらしく。

俺の手元には届かない。

まぁ、届いてないだけで多分めちゃくちゃ来てるんだろうけど?

俺の手元に届くのは、この優しいファンレターのみ。

だから俺は、今日も存分に…にまにまさせてもらうことにする。
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