Music of Frontier
─────あの日。12歳の春のこと。


俺の運命が大きく変わる前。

あの日、俺の親友のルクシーが、我が家を訪ねてきてくれていた。






テーブルの上には、ケーキやクッキー、チョコレートなどの甘いお菓子が並んでいた。

根っからの甘党である俺は、それらをもぐもぐと咀嚼しては、ささやかな幸せを口一杯に味わっていた。

それなのに俺の親友は、一瞬にして俺を現実に引き戻してくれた。

「四月になったら…ルトリアも寮生活かぁ…」

ルクシーは紅茶を啜りながら、ぽつりと呟いた。

…ひっどい。

「…忘れようとしてたのに…思い出させないでくださいよ…」

「忘れようと…って。そんなに嫌か?」

嫌か、だって?

そりゃそうだ。嫌に決まってる。

「嫌ですよぅ…」

「何で?家はあんまり好きじゃないって言ってたじゃないか」

うん。別に実家が居心地良いから離れたくないって訳じゃなくて。

「だって…食事が…」

「食事…?確かあそこは、ビュッフェ形式の食堂だろ?恵まれてるじゃないか」

ルクシーからすれば、そりゃ恵まれてるかもしれないけど。

でもそうじゃないんだ。

俺にはどうしても譲れないことがある。

それが。

「…スイーツ、食べられなくなるでしょ?」

「…は?」

あぁ、考えただけで涙が滲んできた。

「姉さんに聞いたところ、騎士官学校の食堂のデザートは、毎日フルーツかヨーグルトだって言うじゃないですか。そんなの甘味のうちに入らないんですよ!」

「…」

「俺が食べたいのはケーキ。チョコレート。そしてプリン。フルーツやヨーグルトじゃ駄目なんです!砂糖が。砂糖が足りないんです…!」

「…砂糖が欲しいなら、角砂糖でも舐めれば?」

何だと?ルクシー、他人事だと思って。

俺がどんなにスイーツラブか知らないんだ。

「失敬な。俺はチョコ風呂でもクリーム風呂でも、プリン風呂なんてあったら飛び込んで入りますけど、でも砂糖風呂には入りませんよ!あなたはハンバーグが好きだからって、生の合挽き肉にかぶり付きますか?」

それと一緒。

しかしルクシーは、興味無さそうに、

「…プリン風呂って…。気持ち悪っ…」

なんて、失礼なことを呟いていた。

気持ち悪いだと?俺の夢を。

「あぁ…。何で騎士官学校の食堂には…スイーツを置いてないんだ…」

「…仕方ないだろ。筋肉つける為には、スイーツじゃなくて肉が必要だからな…」

姉さんも同じようなこと言ってた。

今でも、俺がスイーツ食べてたら、甘いものばっかりばくばく食うな、ってはたかれる。

肉食って筋肉つけろなんて、横暴だ。食生活は自由であるべきだ。

いくら天下の帝国騎士官学校と言えど、生徒の食事管理までやらなくても良いのに。

そう。帝国騎士官学校。

俺はこの四月から、この学校の生徒になるのである。
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