Music of Frontier
「あぁ…ケーキ…。おやつにケーキを食べられないなんて、拷問に等しい…」

「…そんなことで文句言う生徒は、お前くらいだろうな」

そんなことって。大事なことだよ。

六年間も禁欲生活を強いられるのだから。

仕方ないことだと分かってはいるけど…。

「それに…ルクシーにもあんまり会えなくなりますしね」

「…そうだな…」

これには、ルクシーも少し俯いた。

帝国騎士官学校は全寮制。しかも、自由な外出は出来ず、外出したいときは一ヶ月くらい前から申請をしなければならない。

その申請も、「遊びに行きたいから」とか「買い物がしたいから」なんて理由ではなかなか許可してもらえないらしい。

日常生活に必要なものは、学内にある売店で事足りるからと。

…今時外出も事由にさせてもらえないなんて、時代錯誤にもほどがある。

そもそも現代で剣術の稽古をすること自体が時代錯誤だ。

でも、それが伝統だからと言われてしまえば言い返す言葉がない。

一応年に二回ほど長期休暇があるから、そのときは戻ってこられる。

「長期休暇になったら、また会いましょうね」

「あぁ」

「それと、お手紙書きますね。毎月」

「あぁ。俺も書くよ」

ありがとう。優しい。

ちなみにお手紙も自由には書けず、一月に一通が原則らしい。

…学校と言うよりは、刑務所…?

いや、それでもルティス帝国では指折りの優秀な学校だから。

名誉なことだと思おう。うん。

…でも。

「…ねぇ、ルクシー」

「うん?」

「俺達…ずっと、友達でいましょうね」

「…何だよ、急に」

「いや…ちょっと不安になってしまって」

だって、六年も離れ離れでしょう?

俺と会わないうちに、ルクシーに別の親友が出来たりして。

その人とばかり仲良くして、俺のこと忘れられたとなると…。

それは…悲しい。

「お前こそ、帝国騎士官学校で新しい友達作るんじゃないのか?」

「俺は…無理ですよ」

「陰キャだしな」

済みません。

そういうのはね、思ってても言わないもんだよ。

「俺の方こそ心配だよ。帝国騎士官学校に行けば、俺と違って優秀な仲間がたくさんいるだろ。そいつらと仲良くなって、俺のこと忘れるんじゃないかって…」

「…そんなことありませんよ。絶対」

「そうか?」

うん。ない。

だってルクシー以外の友達なんて、俺には考えもつかない。

「この先俺がどうなろうと、ルクシーが何になろうと…俺達は仲良しのお友達です。そう約束しましょうよ」

「良いのか?俺は守る自信があるけど…お前は守れるのか」

しっ…つれいな。

「守れますよ。守れるに決まってます。破ったら絶交ですよ」

「良いだろう。破ったら絶交な」

それは下らない、子供の約束だった。

ともすればあっさりと忘れられる、つまらない約束。

でも俺達にとって、それは誓いだった。
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