Music of Frontier
「…はぁ」

「大丈夫か?ルトリア」

「…うーん…」

あんまり、大丈夫ではなさげ。

友人のエミスキーが、心配して声をかけてくるくらいには大丈夫じゃない。

「何々?また先輩達に何か言われたのか」

エミスキーに加えて、同じく友人グループの一員であるラトベルが尋ねた。

「言われますよぅ…。ってか言われない日はないです」

毎日何かしら。ぐじぐじ言われる。

あれだけ毎日言われたら、気分も悪くなるというものだ。

「昨日はどんなこと言われたんだ?」

「…一年の癖に生意気とか…。姉のコネで入学させてもらったんだろ、とか…」

「…悔しげな負け惜しみだなぁ」

そうなんだよ。

俺からすればただの負け惜しみでしかないのだが、それでも毎日毎日言われてたら、良い気分はしない。

良い気分がしないどころか腹立つ。

「うちの先輩達は皆良い人で良かったぁ。昨日もさ、一年後期のアシスファルト語の試験の出題形式がどうだったか、こっそり教えてもらった。これで次のテストは楽勝だな」

同じく友人のイーリアが、にやりと笑った。

何だと?

「おい、お前ずるいぞ。俺らにも教えろって」

「悪いね。他には言うなよ、って口止めされてんだ」

…良いなぁ。

次の試験の出題形式を教えてもらえることが羨ましいんじゃない。

それだけ先輩達と、仲が良いのが羨ましい。

「俺のところの先輩も…イーリアのところほどじゃなくても、せめて半分でも優しかったらなぁ…」

「ルトリア…」

もう少し…気楽でいられるのにな。

授業が終わって、寮に帰るのが憂鬱でしかないよ。

帝国騎士官学校は全寮制。生徒は皆、学生寮に入らなければならない。

寮は六人一部屋。一年生から六年生までごちゃ混ぜだ。従って、俺達一年生は先輩達と同じ部屋で寝起きしなければならない。

異なる学年の生徒同士を同室にして、社交性を高める為、などと言われているが…。一年坊主の俺達にとっては、苦痛でしかない。

基本的に騎士官学校では、「教師・先輩の言うことは絶対」だ。

先輩が右と言えば左のものも右になるし、教師が上と言えば下のものでも上になる。

右のものは右だし、上のものは上だと俺は思うのだが。

それが通用しないのが、帝国騎士官学校である。

優しい先輩がいる部屋に入れてもらえれば良いけど、意地悪な先輩ばかりの部屋に入れられると…とても辛いことになる。

俺のようにな。
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