Music of Frontier
俺は死んだように生きていた。中身は死んで、身体だけが生きていた。

でも、もう死んだようなものだった。

俺は生きようとしていなかったから、生きる為に必要なことを、何一つ自分ではしていなかった。

食事はしないわ、睡眠も取らないわ、薬も飲まないわ。

病院スタッフの方も、煩わしかったことだろう。何とも面倒な患者だと思っていることだろう。

毎日、自分じゃ何もしようとしない俺の為に、病院スタッフはあれこれと身の回りの世話をしてくれた。

世話してくれる人はいつでも笑顔で、何の返事もしない俺に、優しく話しかけてくれていた。

でも、俺はその笑顔を偽物だと思い込んでいた。

笑顔の裏で、俺のことを「面倒な患者だ」とか、「こんな奴の世話なんてしたくないのに」とか、「早く死んでしまえば良いのに」とか、そんな風に思ってるに違いないと思っていた。

被害妄想も良いところだが、当時の俺は、本気でそう思っていたのだ。

皆俺のことなんて、大嫌いなのだ。

母のように。父のように。姉のように。

帝国騎士官学校の教官のように。

エミスキーやラトベルや、イーリアのように。

ルームメイトの先輩のように。

皆、皆。

皆、俺のことなんて大嫌いで、早く死ねば良いと思ってるんだ。

だから俺は死ななきゃならない。彼らに迷惑をかけないように。

俺は死ななきゃならない。生きていることを、誰にも望まれてないのだから。

俺は死ななきゃならない。もう二度と、こんな苦しい思いをしたくないから。

…それなのに、俺はまだ生きている。

何で生きてるんだろうか。

こんな死んだように生きてるのに、生きてると言えるのだろうか。

もう放っておいて欲しかった。放っておいてくれれば、誰も世話をしなければ、すぐに死ぬことが出来るのに。

せめてロープとか、カッターナイフでも置いていってくれれば良いのに。それがあれば死ねるから。

それなのに、この部屋には何もなかった。

簡単に死ねるようなものは何も。

それどころか、夜の間は腕を拘束されて、動けないようにされていた。

俺の身体を自由にしたら、自殺すると思ってるのだろう。

実際、俺は拘束されていなかったら、とっくに自殺していたはずだ。

何で自殺させてくれないのだろう。誰にも生きていることを望まれてないのに、何で。

もう、俺は生きていけない。

生きていけないんだ。死にたいんだよ。楽になりたいんだよ、早く。

それなのに、どうしてそれを許してくれないのか。

お願いだから、頼むから、早く俺を殺してくれ。

この絶望の世界から、解放してくれ。

医者が俺の部屋に来る度に、俺はそう言いたかった。そう言おうとした。

でも、言えなかった。
< 96 / 564 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop