Music of Frontier
あれ以来、俺は声が出なかった。身体が、声の出し方を忘れてしまったのだ。

自分では喋ってるつもりなのに、声は出ていない。

もしかして、声が出せないんじゃなくて俺の耳が聞こえてないだけなんじゃないか?

そんな懸念を抱いたが、病院スタッフの声は聞こえるし、動けば衣擦れの音が聞こえる。

それに、声が出ているのなら病院スタッフが何らかの反応を示すだろうから、耳が聞こえないんじゃなくて、本当に声が出てないのだ。

足も動かない上に、声まで出ないとは。やっぱり、俺の身体はポンコツの欠陥品だ。

このまま、命の灯火も消えてしまえば良いのに。

強く強く、そう願っているのに。

どうしても、俺は死ぬことが出来なかった。誰も、俺を死なせてくれなかった。

皆が俺の死を願っているのに、俺も自分の死を心から、強く願っているのに。

俺はまだ生きている。絶望の中に、悲しみの中に溺れながら生きている。

…誰か、早く終わらせてくれ。

俺はベッドの上で、一日中そんなことを考えていた。

早く死にたい。早く解放されたい。

ただそれだけを、ずっと願い続けていた。
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