パパになった航空自衛官は強がり双子ママに一途な愛をわからせたい
 突如、デッキの入り口にいた彼に名を呼ばれた。懐かしい響き。低く、厚みのある優しい声。

 時間が止まったような気がした。

 西日で影になり彼の顔は見えないが、それでも声の主は誰だか分かる。忘れることのできなかった、たったひとりの愛しい人だ。

 だから余計に、その声が私の胸を苦しめる。私は慌てて顔を背け、デッキから駆け出そうとした。

「待ってくれ、千愛里!」

 彼の手が、私の腕をつかんだ。その力は優しいのに、私は振り解くことができない。

 大きな温かい手。それもあの時から変わらなくて、私の胸を余計に締め付ける。

 四年前。彼が重要な任務へ向かうと分かっていたのに、私はその直前に心ない言葉を放って逃げた。

「どうしてここに? 結婚はどうしたんだよ!」

 焦るような、慌てたような強い口調にもかかわらず、彼は優しく私の腕を引く。それで体が回転し、私は彼と対峙しなくてはいけなくなった。

 顔は見たくない。背の高い彼の顔を見なくて済むように、私は俯いた。

 ピカピカに磨かれた革靴が目に入る。その上は、自衛隊パイロットだけが着ることを許される、深緑色の隊服だ。
 目線を上げると、彼の胸元にはあの日と変わらず、自衛隊パイロットの証であるウィングマークが光っている。
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