恋忘れ
暁side
仕事関連の本を探しに出て数時間、良さそうなものが手に入ったので本屋を後にした俺は冬羽から頼まれたものを買いに自宅近くのスーパーを目指して歩いていた。
昼過ぎのこの道は人通りもそこそこでスーツ姿の大人たちが行き交っている。
今朝よりも風は強くなく歩いているとじんわりと汗が出てくるくらいの気温で、"カーディガンいらなかったな"そんなことを後悔した。
「あれ?あの、この前の…」
ふとすれ違った背の高い女性に声をかけられた気がして振り向くと見覚えのある姿がそこにはあった。
誰だろうか、と考えてだけどやはり上手く思い出せない。
曖昧に言葉を濁していると向こうから話し出してくれた。
「去年の冬、スーパーでお会いしましたよね。えっと、冬羽さんの彼氏さんであってますかね?」
スーパー?
まさに今から行こうとしているあのスーパーのことかと思い、思考を巡らせる。
「あぁ!あの時の。陽翔といた方ですよね?」
これで違っていたら相当恥ずかしいが目の前の女性の凛とした姿が印象的だったのはなんとなく覚えていたのでおそらく合っているだろうと思う。
「そうですそうです。覚えててくださったんですね。」
嬉しそうに笑う姿がキラキラしていた。
「合ってて良かったです。髪の毛結んでるとまた雰囲気違いますね。」
あの時は髪を下ろしていて少し幼かったのが今では会社員というようなすっかり大人っぽい印象だった。
「本当ですか?まぁ、営業マンなのでピシッとしておかないと。」
はにかんで笑う姿に感じが良い人だなと素直に思った。
「そっか。陽翔と同じ会社なんですもんね。営業さんかぁ。大変でしょう。」
通り過ぎる人たちの邪魔にならないように俺たちは自然と端に寄った。
「まぁそれなりに。でも楽しいですよ!」
はつらつと話すその姿は嘘をついている様には見えず思わずつられて笑った。
「そういえば…去年のクリスマスの日冬羽さんのこと、呼び出してしまってすみませんでした。」
さっきとは打って変わっておずおずと話して頭をぺこりと下げる彼女に頭の中ではてなが浮かんだ。
去年のクリスマス?
何のことだ?
「えっ、と。すみません何のことかわからないのですが…」
「あれ?聞いていませんでしたか…?」
何だか嫌な予感がした。あの日ずぶ濡れで帰ってきた冬羽の様子がおかしかったことは覚えている。
でもそれがこの人と何の関係があるというのだろうか。
「そう、ですね。」
「実はあの日、陽翔が熱で倒れてしまって。ひとりにできる状況じゃなかったので冬羽さんに来て頂いたんです。」
「…は?」
思ったよりも低い声が出てハッとすると目の前の女性は怯えるようにして身をこわばらせた。
この人に怒っても仕方がないことなのは分かっているのに。
「や、私も仕事で…それに陽翔と冬羽さん親しそうだったので。そうですよね、イブの日に呼び出すなんて怒りますよね。本当にすみませんでした。」
「あ、はい。」
早口に圧倒されて何も言えないまま手に持っているスーパーの袋の取っ手を強く握りしめる。
「あの私まだ外回りあるので申し訳ないんですけどこの辺で。」
彼女はぺこりと頭を下げるとまた歩き出してしまった。
俺は追いかけて理由を聞く気にもなれずにただその姿を見送ることしかできなかった。
どういうことだろう。
冬羽はあの日仕事だったと言っていた。
陽翔の話なんて一言も。
それに結婚の話だってしたのに。
「何でだよ…」
俺の呟きは春の暖かい風に攫われていく。
結局冬羽はまだ陽翔のことを好きだったんだと嫌でもというくらいに思い知る。
心のどこかで分かっていたことを第三者から聞かされるとこうも胸にくるものなのか。
帰らなければ。
冬羽が待つ家へ。
だけど足が震えて動き出せない。
早く帰ると言ったのに気づけば俺は携帯からメッセージを送っていた。
''ごめん。会社に呼び出されて帰り遅くなる''
この日、俺は初めて冬羽との約束を破った。
そして嘘を吐いた。
仕事関連の本を探しに出て数時間、良さそうなものが手に入ったので本屋を後にした俺は冬羽から頼まれたものを買いに自宅近くのスーパーを目指して歩いていた。
昼過ぎのこの道は人通りもそこそこでスーツ姿の大人たちが行き交っている。
今朝よりも風は強くなく歩いているとじんわりと汗が出てくるくらいの気温で、"カーディガンいらなかったな"そんなことを後悔した。
「あれ?あの、この前の…」
ふとすれ違った背の高い女性に声をかけられた気がして振り向くと見覚えのある姿がそこにはあった。
誰だろうか、と考えてだけどやはり上手く思い出せない。
曖昧に言葉を濁していると向こうから話し出してくれた。
「去年の冬、スーパーでお会いしましたよね。えっと、冬羽さんの彼氏さんであってますかね?」
スーパー?
まさに今から行こうとしているあのスーパーのことかと思い、思考を巡らせる。
「あぁ!あの時の。陽翔といた方ですよね?」
これで違っていたら相当恥ずかしいが目の前の女性の凛とした姿が印象的だったのはなんとなく覚えていたのでおそらく合っているだろうと思う。
「そうですそうです。覚えててくださったんですね。」
嬉しそうに笑う姿がキラキラしていた。
「合ってて良かったです。髪の毛結んでるとまた雰囲気違いますね。」
あの時は髪を下ろしていて少し幼かったのが今では会社員というようなすっかり大人っぽい印象だった。
「本当ですか?まぁ、営業マンなのでピシッとしておかないと。」
はにかんで笑う姿に感じが良い人だなと素直に思った。
「そっか。陽翔と同じ会社なんですもんね。営業さんかぁ。大変でしょう。」
通り過ぎる人たちの邪魔にならないように俺たちは自然と端に寄った。
「まぁそれなりに。でも楽しいですよ!」
はつらつと話すその姿は嘘をついている様には見えず思わずつられて笑った。
「そういえば…去年のクリスマスの日冬羽さんのこと、呼び出してしまってすみませんでした。」
さっきとは打って変わっておずおずと話して頭をぺこりと下げる彼女に頭の中ではてなが浮かんだ。
去年のクリスマス?
何のことだ?
「えっ、と。すみません何のことかわからないのですが…」
「あれ?聞いていませんでしたか…?」
何だか嫌な予感がした。あの日ずぶ濡れで帰ってきた冬羽の様子がおかしかったことは覚えている。
でもそれがこの人と何の関係があるというのだろうか。
「そう、ですね。」
「実はあの日、陽翔が熱で倒れてしまって。ひとりにできる状況じゃなかったので冬羽さんに来て頂いたんです。」
「…は?」
思ったよりも低い声が出てハッとすると目の前の女性は怯えるようにして身をこわばらせた。
この人に怒っても仕方がないことなのは分かっているのに。
「や、私も仕事で…それに陽翔と冬羽さん親しそうだったので。そうですよね、イブの日に呼び出すなんて怒りますよね。本当にすみませんでした。」
「あ、はい。」
早口に圧倒されて何も言えないまま手に持っているスーパーの袋の取っ手を強く握りしめる。
「あの私まだ外回りあるので申し訳ないんですけどこの辺で。」
彼女はぺこりと頭を下げるとまた歩き出してしまった。
俺は追いかけて理由を聞く気にもなれずにただその姿を見送ることしかできなかった。
どういうことだろう。
冬羽はあの日仕事だったと言っていた。
陽翔の話なんて一言も。
それに結婚の話だってしたのに。
「何でだよ…」
俺の呟きは春の暖かい風に攫われていく。
結局冬羽はまだ陽翔のことを好きだったんだと嫌でもというくらいに思い知る。
心のどこかで分かっていたことを第三者から聞かされるとこうも胸にくるものなのか。
帰らなければ。
冬羽が待つ家へ。
だけど足が震えて動き出せない。
早く帰ると言ったのに気づけば俺は携帯からメッセージを送っていた。
''ごめん。会社に呼び出されて帰り遅くなる''
この日、俺は初めて冬羽との約束を破った。
そして嘘を吐いた。