恋忘れ
2
気づけば季節は春を迎えていた。
すっかり暖かくなってきた春の木漏れ日を受けて、眠りに落ちてしまいそうな私はそれを誤魔化す為に部屋の窓を開けた。
「あ、桜。」
目の前を桜の花びらがはらはらと舞う。
指の先で掬った花びらはあっという間に風に乗って去っていく。
あれから結婚の返事は、まだしていない。
こんな私の曖昧さに暁さんは急かすこともせずいつまでも付き合ってくれている。
「おはよう冬羽。」
暁さんにしては珍しく遅い朝だった。
「おはよう。まだ眠そうだね。」
コーヒーを淹れにキッチンに立つ私に暁さんは眉を下げた。
「あぁうん。春はどうも眠くて苦手なんだよね。」
「暁さんにもそういうところがあって良かった。」
はいどうぞ、とコーヒーをテーブルに置くと軽いあくびをしながら「なにそれ」と笑われた
「暁さんにも苦手なものあるんだなって安心?」
「そりゃああるよ。俺のこと何だと思ってるの。」
「完璧な人。」
「ふっ、冬羽って時々変なこと言うよな。天然でしょ。」
「天然…言われたことないなぁ。」
なんて笑い合っていると桜の花びらが風でぶわぁっと舞い上がった。
「今日風強そうだね。窓閉めようかな。」
私が立ち上がって窓を閉めに行くとコーヒーを飲みながらふと思い出したように暁さんが顔を上げた。
「ありがとう。そうだ、俺今日ちょっと本屋行かないといけないんだ。」
「そうなの?」
「何か予定あった?大丈夫?」
「ううん。私は何もないよ。」
「そっか。良かった。仕事関係の調べ物でさ。冬羽も一緒に行く?」
「ううん。邪魔しちゃ悪いし私は大丈夫。」
「そう?じゃあ早めに帰ってくるよ。」
予定がないと言ったので私がひとりで退屈すると思ったのか暁さんは気遣ってくれる。
「ゆっくりしてきていいのに。」
一度言い出したら聞かないのはもうよく分かっているけれど一応そんな牽制をしつつ私は笑って見せた。
コーヒーをきっちり飲み終えると暁さんは早々と準備をして出かけて行く。
空になったカップは丁寧に洗って食器カゴに干してあるところが彼らしいなと感心する。
「あ、お醤油買い忘れてる。」
スマホから暁さんに"帰りにお醤油買ってきて"とメッセージを送るとすぐに可愛らしいスタンプとともに"分かった"の文字。
普段の大人っぽい姿からは想像できないその姿に胸がくすぐったくなった。
こうしていると"結婚"することがどう考えても自然で幸せなことは容易に想像できるのに。
それなのにどうしてだろう答えを出せないのは。
あの日、陽翔君が言った''行かないで''を今でも思い出してしまう。
それを暁さんにずっと言えないままでいることにも罪悪感が募る。
そんな毎日を繰り返している今の私に幸せになる資格があるわけないのだと、そう思った。
好きな人と一緒にいることがこんなに難しいなんて昔はちっとも気づかなかったのに。
窓の外をふと見ると桜の花びらが雪みたいに降ってあの雪の日を思い出す。
早く桜の雨がやんでほしいと思って私はぎゅっと目をつぶった。
すっかり暖かくなってきた春の木漏れ日を受けて、眠りに落ちてしまいそうな私はそれを誤魔化す為に部屋の窓を開けた。
「あ、桜。」
目の前を桜の花びらがはらはらと舞う。
指の先で掬った花びらはあっという間に風に乗って去っていく。
あれから結婚の返事は、まだしていない。
こんな私の曖昧さに暁さんは急かすこともせずいつまでも付き合ってくれている。
「おはよう冬羽。」
暁さんにしては珍しく遅い朝だった。
「おはよう。まだ眠そうだね。」
コーヒーを淹れにキッチンに立つ私に暁さんは眉を下げた。
「あぁうん。春はどうも眠くて苦手なんだよね。」
「暁さんにもそういうところがあって良かった。」
はいどうぞ、とコーヒーをテーブルに置くと軽いあくびをしながら「なにそれ」と笑われた
「暁さんにも苦手なものあるんだなって安心?」
「そりゃああるよ。俺のこと何だと思ってるの。」
「完璧な人。」
「ふっ、冬羽って時々変なこと言うよな。天然でしょ。」
「天然…言われたことないなぁ。」
なんて笑い合っていると桜の花びらが風でぶわぁっと舞い上がった。
「今日風強そうだね。窓閉めようかな。」
私が立ち上がって窓を閉めに行くとコーヒーを飲みながらふと思い出したように暁さんが顔を上げた。
「ありがとう。そうだ、俺今日ちょっと本屋行かないといけないんだ。」
「そうなの?」
「何か予定あった?大丈夫?」
「ううん。私は何もないよ。」
「そっか。良かった。仕事関係の調べ物でさ。冬羽も一緒に行く?」
「ううん。邪魔しちゃ悪いし私は大丈夫。」
「そう?じゃあ早めに帰ってくるよ。」
予定がないと言ったので私がひとりで退屈すると思ったのか暁さんは気遣ってくれる。
「ゆっくりしてきていいのに。」
一度言い出したら聞かないのはもうよく分かっているけれど一応そんな牽制をしつつ私は笑って見せた。
コーヒーをきっちり飲み終えると暁さんは早々と準備をして出かけて行く。
空になったカップは丁寧に洗って食器カゴに干してあるところが彼らしいなと感心する。
「あ、お醤油買い忘れてる。」
スマホから暁さんに"帰りにお醤油買ってきて"とメッセージを送るとすぐに可愛らしいスタンプとともに"分かった"の文字。
普段の大人っぽい姿からは想像できないその姿に胸がくすぐったくなった。
こうしていると"結婚"することがどう考えても自然で幸せなことは容易に想像できるのに。
それなのにどうしてだろう答えを出せないのは。
あの日、陽翔君が言った''行かないで''を今でも思い出してしまう。
それを暁さんにずっと言えないままでいることにも罪悪感が募る。
そんな毎日を繰り返している今の私に幸せになる資格があるわけないのだと、そう思った。
好きな人と一緒にいることがこんなに難しいなんて昔はちっとも気づかなかったのに。
窓の外をふと見ると桜の花びらが雪みたいに降ってあの雪の日を思い出す。
早く桜の雨がやんでほしいと思って私はぎゅっと目をつぶった。