佐藤先輩と私(佐藤)が出会ったら
1
4月





83人の男子がジッッとこっちを見ている。



でも、その全員の視線は私ではない2人の女子の方にあって・・・。



いや・・・



1人だけ・・・



1人だけ、私のことを見ている男子が・・・、佐藤先輩だけが私のことを真っ直ぐと見ていた。



男子バスケ部83人の中、キャプテンでも副キャプテンでもない佐藤先輩。



スタメンではあるけれど身長173センチで細身な佐藤先輩が、可愛いお顔に見えるのに不思議とちゃんと男の人の色気もあって不思議と格好良く見える顔で、1番前の列で私のことだけを見ていて・・・。



私と目が合った瞬間、佐藤先輩はいつものようにニコッと笑った。



私が通っていた中学の1つ上の佐藤先輩はこの4月で3年生になった。
佐藤先輩はこの強豪校の中でスタメンとして頑張っている・・・。
佐藤先輩はこの強豪校でも1年生の頃からガードのスタメンになった・・・。



ニコッと笑ってくれた佐藤先輩の笑顔から逃げるように、私は下を向いた。



隣に立っている2人の女子バスケ部のマネージャーと同じく、女バスのジャージは着ているけれどプレーヤーとしては終わってしまった私は、下を向いた。



そしたら、その時・・・



「竜也(たつや)、女のことはお前に任せる。
そんな可愛い顔面で俺よりも女のことをよく知ってるだろうし。
うちのマネージャーが短期留学から戻ってくるまでのあと2週間、お前以外はモテないこいつらが面倒なことを起こさないであろう子を2人選べ。
お前なら分かるだろ。」




男バスの顧問である土屋先生が佐藤先輩にそう言うと、佐藤先輩は即答した。



「1年の女の子で。」



1人しかいない1年生の女の子、磯貝さんを選んだ佐藤先輩の声に思わず顔を上げると、佐藤先輩はもう私のことなんて見ていなかった。



「キミ、3年E組の奴の彼女だよね?」



「はい・・・・・・。」



「おい、大丈夫かよ。
普通の青春ならやっておけと言ってるけどな、男バスにいる間での男女のゴタゴタは勘弁しろよ?
女に振られたくらいでシュートが入らなくなる野郎もいるくらい、女ってヤバい存在だからな?」



「大丈夫ですよ、その子の彼氏はうちの男バスの"82人”が本気になっても勝てそうにないくらいの彼氏なので。」



「おいおい、あと1人どうした。
竜也、お前、女バスからお借りするマネージャーにまで手出すなよ?」



「俺は出すつもりはないですけど、勝手に好きになられちゃう場合は俺のせいじゃないですけどね。
でもキミ、俺のこと男として好きにならないよね?」



佐藤先輩が作ったようなニコッという笑顔で笑うと、磯貝さんは「はい」ではなく「あ、全然タイプじゃないです」と力強く答えていた。



そんなやり取りを最後まで確認した後は、また無意識に下を向いた。



いや、向うとした・・・



その時・・・



「晶(あきら)。」



佐藤先輩が、私の名前を口にした。



「もう1人は晶で。」
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