佐藤先輩と私(佐藤)が出会ったら
佐藤先輩が息を飲んだのが何となく分かる。



「嫌だ・・・。」



短く答えた佐藤先輩が苦しそうな声で続けた。



「ごめん、離せない・・・。
離したくない・・・。
行かないで、晶・・・。
お願いだから、行かないで・・・。」



「えっと・・・今日は慎也と約束もあるので行きますけど、佐藤先輩と私の関係はこれからも普通に・・・今まで通りで・・・。
それは、私も・・・そのつもりです。」



そう答えてから佐藤先輩の胸を精一杯押した。
もう、本当に時間もなかったから。



「ごめんなさい、本当に・・・っ離してください!!!」



叫びながらそう言うと・・・



「・・・・・・・・・。」



佐藤先輩は何も言わず、私のことをゆっくりと・・・ゆっくりと、離した。



「ありがとうございます・・・っお疲れ様でした!!」



そう言ってから、佐藤先輩の所から走り出した。



まだ全力で走るのは怖いから、軽くだけど走り出した。



「お兄ちゃんと喧嘩か〜?」



「早く仲直りしてくれよ!」



「あんなパスとか俺取れねーって!!」



スタメンの先輩達が大きく笑う前を、私は無言で通り過ぎた。



”私だって気付いていた・・・。"



”私とよく似た男の先輩がいることには、中学に入ってすぐに気付いていた・・・。"



”部活紹介の時に先輩達の後ろに立っているだけの佐藤先輩にもすぐに気付いた・・・。"



”それで、あんなに小さくてもバスケって出来るんだって思いながら、私はバスケ部に入った・・・。"



"佐藤先輩がいたから、私はバスケ部に入ったんだよ・・・。”



"佐藤先輩と出会ったから、私はバスケットボールが楽しいと思ったんだよ・・・。”



”佐藤先輩と出会ったから、私は・・・"




”私は・・・”


















「すみません、これ・・・・・いや、こっちかな、これください・・・あ、ごめんなさい、やっぱりこっちで。」



この前慎也とデートの話し合いをしたお店と駅の間にあったお店、佐藤先輩との帰り道の途中にあった小さな雑貨屋さんで、作り物のリンゴを1つ買った。



佐藤先輩と話しながらも、私の視界の中にはこのリンゴが見えていたから。



凄く凄く綺麗で美味しそうなリンゴ・・・。



でも、これは偽物・・・。



どうやっても本物にはなれない偽物・・・。



「私は、佐藤先輩と出会ってから1度も、佐藤先輩のことを”家族"だなんて思ったことがありません・・・。
私は・・・私は、佐藤先輩のことを男の人として好きになってしまいました・・・。
ごめんなさい・・・、私・・・私は、佐藤先輩の”妹"にはこれからもずっとなれそうにないです・・・っ」



佐藤先輩の本当の”家族"になんてなれない私が、偽物のリンゴを見下しながら呟いた。
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