佐藤先輩と私(佐藤)が出会ったら
駅からトボトボと家に向かって歩いていく。



また重くなってしまった足を動かしながら。



また重くなってしまった身体を前に進めながら。



全然進まない・・・。



私はあんなに走るのが速かったはずなのに、全然前に進めない・・・。



下を向いて歩き続けた。



佐藤先輩とエッチまで出来て、あの時は本当に幸せだと思えていたのに、今はこんなにも下を向きながら歩き続けた。



”ごめん、ハッキリ言ってそれはちょっとショック。
水曜日の夜は冗談半分で言ってたし、柳瀬から聞いた時も”まさかそんなはずねーだろ"と思ってたけど、実際にヤッてたとしたらちょっと・・・結構・・・・いや、めっちゃ強い衝撃を受けた。"



慎也からの言葉が私の頭の中をグルグルと回っている。



その言葉だけがグルグルと・・・



グルグルと・・・



何回も・・・



何回も、回っていく・・・。



うるさいくらいに響いてくる。



私の胸に、痛いくらいに突き刺さってくる。



言わなければ良かった・・・。



誰にも言ってはいけなかった・・・。



そうすれば、いつもみたいに・・・



いつもみたいに、私・・・



いつもみたいに、佐藤と・・・



これからも一緒に・・・



出会った時と変わらない関係で・・・



ずっと、一緒に・・・



いられたかも、しれな・・・



”しれないのに"
そう心の中で呟く前に、聞こえてきた・・・。



聞こえてきた・・・。



バスケットボールの音が聞こえてきて、やっと気付いた。



この道は高速道路の下にあるバスケットコートへと続く道。



私は家ではなく無意識にこっちに向かって歩いていたらしい。



此処まで響いてくるバスケットボールの音を聞きながら、言う。



「私が1番好きなスポーツは・・・、佐藤先輩と遊ぶバスケットボールです・・・。」



それで良かったのに・・・。



それが良かったのに・・・。



きっと、良かったのに・・・。



私は知ってしまった・・・。



佐藤先輩がどんな裸をしているのかを・・・。



佐藤先輩がどんな手で私の裸を触るのかを・・・。



佐藤先輩がどんな顔で私とエッチをするのかを・・・。



知ってしまったから、私は戻れない・・・。



誰かに言ってしまったから、私はもっと戻れない・・・。



「もう、戻れないよ・・・。」



そう言って、泣いた時・・・



聞こえた。



また、バスケットボールの音が聞こえた。



ただのバスケットボールの音ではない。



これは・・・



これは・・・



この、ドリブルの音は・・・



「佐藤先輩・・・?」



佐藤先輩のドリブルの音だった。



どう聞いても、何度聞いても、佐藤先輩のドリブルの音。



間違えるわけがない。



私が佐藤先輩のドリブルの音を忘れはずがない。



私が1番好きで・・・



大好きで・・・



愛している人がするドリブルの音を・・・。



その音だけでこんなにも私の心を動かして、こんなにも私の足を動かせてしまうこの音を、私は忘れるはずがない・・・。



例え私が死にそうになってしまったとしても、そんなことがあったとしても、きっと佐藤先輩のドリブルの音で私は起き上がる。



きっと、何度でも起き上がれる・・・。



佐藤先輩先輩のドリブルは、それくらいで・・・。



それくらい、私が愛している音だった・・・。
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