その手で触れて、そして覚えて。
「七花ー!早く早くー!」
同期で同じ総務課の土村紗和に急かされ、わたしは急いで帰る支度をする。
今日はこれから、今春の新入社員である街風颯生くんの歓迎会を開くことになっているのだ。
急いでコートを羽織り、紗和の元へ駆け寄る。
「あれ?みんなは?」
「もう先行っちゃったよ。街風くん、女子たちに囲まれて、ありゃ罪な男だね〜。まぁ、あんな爽やかでイケメンな若い男性社員なんて他に居ないから、仕方ないかぁ。」
新入社員の街風くんはまだ24歳で、紗和の言う通り、爽やかで背も高く整った顔立ちをしている為、入社当日からモテ男子の印を押されている子だ。
わたしはその街風くんの教育係りをしているのだが、彼は覚えが早く、何でも卒無く熟す手のかからない子で、まだ入社して1ヵ月程だが、重要な業務以外は一人で仕事を任せてもいいかなと思っているところだった。
歓迎会の為に予約している居酒屋に到着すると、既にみんな座敷のテーブルを囲み、街風くんは当然女性社員に囲まれて座っていた。
「わたしらは空いてるとこに座ろうか。」
「だね。」
そう言って、わたしと紗和は空いていた端の方に座り、バッグを下ろした。
そして、みんなそれぞれ飲み物を頼み、お酒が弱いわたしはレモンサワーを注文した。
「レモンサワーだなんて、七花主任可愛い〜!」
「わたしだって飲めるならビール飲みたいよ!」
茶化してくる紗和はビールのジョッキーを持ち、そしてみんなで乾杯をして歓迎会は始まった。