その手で触れて、そして覚えて。
「ねぇ、七花は再婚とか考えてないの?」
焼鳥を片手に紗和が訊いてくる。
わたしは枝豆をかじり、「ないかなぁ〜。」と答えた。
「まだ36なんだから、チャンスはあるよ?」
「んー、でも、わたし結婚向いてないから。もう一人でいいかなって。仕事人間として生きていくよ。」
わたしは結婚していた。そう、過去形。
5年前に離婚してから、誰一人とも付き合ってはいない。
離婚原因は、前の夫の不倫だ。
毎日、仕事から帰って来ると身体を求めてきた前の夫だが、一方的でただ自分の欲を満たすだけの道具としかわたしを思っていないような行為ばかりだった。
終わるといつもわたしに背を向けて寝てしまい、わたしは寂しかった。
そしてある日、わたしは勇気を出して、背を向けて眠る前の夫の背中にくっついてみた。
すると、「あー、鬱陶しい。」と言って跳ね除けられ、その瞬間にわたしは、あぁ、わたしは愛されていないんだ、とショックを受け、前の夫への気持ちが冷めてしまった。
それから、わたしは前の夫からの行為を拒否するようになった。
愛されていないなら、意味がない。
そうすると、前の夫は帰りが遅くなるようになり、わたしの誕生日の時に不倫が発覚し、離婚をしたのだ。
あの日から、わたしにとって誕生日は悲しい思い出がある、最悪な日になった。
わたしはただ、愛されたかっただけなのに、、、