その手で触れて、そして覚えて。
「あの時、感動したというか、凄く嬉しかったんです。今まで大体最初は"まちかぜ"って呼ばれて、下の名前も何て読むか分からないって言われることが多かったので、七花主任が最初から(つむじ さつき)って呼んでくれたのが印象的で。」
そうだった。
わたしも下の名前が"七花"で"ななか"と間違えられることがほとんどだったから、人の名前には気を付ける事が身に付いていたのだ。
自分が不快な思いをしてきたから。
「俺が間違えられるのは慣れてるのでって言ったら、七花主任は"不快に思うことに慣れなんてないよ"って言ってくれたので、だから、僕も七花主任には不快な思いをしてほしくなかったんです。」
街風くん、あの時の話、覚えててくれてたんだ、、、
「そっかぁ、、、ありがとう。街風くん。」
街風くんはちょっと照れくさそうに「いえ。」と言うと、軽く一礼をしてから自分のデスクに戻って行った。
すると、後ろから紗和が「街風くん、イケメンな上に善い子だね〜。」と関心していた。
「うん、そうだね。」
わたしはそう返事しながら、どこかでただの"善い子"とは違う気持ちが湧き上がってきていることに気付いたが、わたしはその気持ちを心の奥にしまい込んだ。
わたし、何考えてるんだろ。
街風くんは、ただの部下。
しかも、12歳の年下。
下手したら、発言によってはセクハラ認定されてもおかしくないから、気をつけないと。
そう思いながら、わたしは自分のデスクにつき、業務を開始した。