その手で触れて、そして覚えて。
その日の帰り、街風くんは家まで送ると言ってくれたのだが「今日は残業で疲れてるでしょ?わたしは大丈夫だから、早く帰ってゆっくり休んで?」と言い、街風くんは「じゃあ、お言葉に甘えて。お疲れ様でした。」とバス停の方へ歩いて行った。
わたしもさすがに疲れたので、本当なら歩いて帰れる距離だが、丁度バスが来ていたので、バスで帰ることにした。
そして、乗ったバス停から3つ目のバス停で降り、そこから徒歩で帰る。
自宅マンションに着き、エレベーターで上がって自分の部屋へ向かうとすると、わたしの部屋の前に冬司が立っていた。
「な、何してんの?」
わたしがそう訊くと、冬司は「お前残業?LINEしても全然帰ってこねーから、待ってた。」と呆れ顔で言った。
わたしはバッグからスマホを取り出し確認すると、確かに冬司からLINEが届いていた。
「ごめん、全然見てなかった。」
「七花って本当スマホ見ないよな。」
「残業で忙しかったんだから、仕方ないでしょ。」
「一人で残業してたの?」
自宅玄関のドアの鍵を開けようとした時、冬司の言葉につい手が止まるわたし。
わたしは平然とした態度で鍵を開けながら、「街風くんが手伝ってくれた。」と答えた。
「あぁ、あのモテ男くん?」
「その呼び方やめなさいよ。」
「俺のLINE無視したお詫びに、これから晩酌付き合ってもらうな。」
「え〜、わたし疲れてるんだけど。」
「少しくらいいいだろ?」
そう言いながら、冬司はお酒が入っているんであろうレジ袋を片手に強引にわたしの家の中へと入って来た。