遣らずの雨 下
サンビタリア

愛の始まり

「いらっしゃいませ」



梅雨も明け日差しが厳しい夏に入るも、
名古屋の暑さと静岡の暑さは感じ方が
違う気がしてしまう


気温もだけど、とにかく風が強くて
気持ち良く感じるからそれだけで
暑くてもやり過ごせていた。


開けっぱなしにしてあるショップの
扉から、最近良くご来店される
お客様が今日も見えて笑顔で頭を下げる


『皐月、今日夕方から遊の事務所に
 仕事で出掛けてくるから悪いけど
 店閉めといて。』


「うん、分かった。」


Tシャツを捲り、筋肉が程よくついた
凪の腕にドキリとしつつも、笑顔で
頷く。


凪‥‥髪伸びたな‥‥‥。
伸びた髪をかきあげる仕草や、
髪の隙間から覗く切れ長の瞳に
どんどん色気が増してる気がしてしまう


『あの、これ取ってもらえますか?』


「あっ、はい!お待ちくださいね。」


吊るされていたハンキングプランツの
ポトスを指差す男性の元に慌てて
踏み台を片手に向かうと、そこに登り
背伸びをした。


「お待たせしました‥‥‥お客様?」


私の背後にいたお客様に、脚立の
上から振り返ると、視線を逸らされ
てしまった。


『あ‥‥ありがとうございます。
 それ下さい。』


「はい、かしこまりました。
 ご自宅用で宜しかったですか?」


何度も首を縦に振るお客様を不思議に
思いながらも、紙袋に入れお会計を
する為カウンターに向かった。



紙袋に植物のお手入れ方法や育て方が
書かれた手作りのメモを入れると、
また視線を感じてパッと顔をあげる
もののまた逸らされてしまった。


‥‥‥‥なんだろう 
気のせいかも知れないけど見られてる?



『皐月、悪いけど外の庭木に
 水やってきて?会計変わるわ。』


えっ?


カウンターで業者さんと電話を
終えた凪が急にそんな事を言ってきた
ので驚いたけど、言われた通りレジを
任せて、店の裏に行きホースで庭木に
水を撒いた。


どうしたんだろう‥‥‥


凪がショップのレジに入る事なんて
まずないのに‥‥‥


よく分からなかったけれど、一通り
水を撒いた後ショップに戻ると、
カウンターに居た凪がまた誰かに
電話をしていた。


さっきのお客様は帰っちゃったか‥‥


ありがとうございますぐらい
伝えた方が良かった気もしたから、
次また見えたら挨拶しようかな‥‥
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