幼なじみは、私だけに甘い番犬

 椰子は震え気味の手で、そっと玄希の頬に触れる。
 よかった、あたたかい。
 
 肝臓の移植手術の後、約1年くらいは食事制限が厳しかったと言っていたが、3年経った今でも口にできないものは存在する。
 薬との副作用もあるし、肝臓に負担をかける食べ物も控えなければならない。

 玄希は、既に食べれるようになった物でも徹底して排除して生活している。
『手術に100%が無いように、術後にも完璧はないから』という考えがあるらしく、リスクマネジメントだと彼は言った。

 そんなストイックすぎる玄希が、命の危険を冒してまで守りたかったもの。
 椰子は自分にそんな価値はないのに……と思わずにはいられない。

 点滴が刺さってない方の手をそっと握りしめ、顔を埋めた。

「ごめんね」

『ありがとう』というべきなのかもしれない。
 だけど、今は感謝よりも申し訳なさに打ちのめされる。

 だって、いつだって守って貰うばかりで。
 今まで玄希に何かしたことがあっただろうか?
 周りの子たちに『ドーベルマン』と言われ続けてもへっちゃらな顔して守ってくれた。

 失いたくない。
 この手のぬくもりを。

 溢れる涙を拭うこともせず、ただただ玄希の手に縋っていた、その時。

「泣き虫」
「ッ?!」
「そんなに泣きじゃくってたら、声かけづれーよ」
「っっっ」

 点滴が刺さっている手で、私の髪をわしゃわしゃとした。

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