俺様同期の執着愛
 10月も終わりだから、ずいぶん夜は冷える。
 なぜか今夜は風がやけに冷たい。
 駅までの道を歩いていたら、ふと足が止まった。
 俯いていると涙が地面に落ちた。

「平気。大丈夫」

 来週になれば、きっと元の関係に戻れるはず。

 戻れるの――?

 前みたいに冗談を言い合って、気楽に笑い合える関係で、たまに割り切った大人の関係を持ち、同じ趣味で楽しんでいられる。

「……無理だよ」

 だって、もう以前のような私じゃないから。

 柚葵は私の体が好きなのだろうけど、私は違う。
 私は柚葵の体も心も、ぜんぶほしい。

「欲張りだなあ」

 この関係を壊したくないけど、このままでいるのが無理なら、どうにかしなきゃいけない。
 もういっそ、言っちゃおうかな。
 柚葵の心がほしいって。

「え、やだ。私、いつの間に……」

 こんなに柚葵を好きになってしまったんだろう。

 ついこの前までただの同僚だったのに。
 柚葵と一緒にいるのが楽しくて幸せで、このままずっとあの時間が続くと思っていた。

 当たって砕けろなんて、昔はよく言ったものだけど。
 砕けることなんてできない。

 柚葵との関係が壊れても、毎日同じ空間で過ごさなきゃいけないなんて地獄だ。

「……とりあえず、帰ろう」

 冷えた空気で頭はいくらか冷静になったけど、心は寒さが増すばかりだった。

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