俺様同期の執着愛
「綾」
「うん?」

 柚葵が真面目な顔で見つめてくる。
 私は心臓がバクバクして笑顔が引きつる。

「お前、髪跳ねてんぞ」
「え? うそっ」
「うそ」

 柚葵は真顔のままそう言って、さっさと私の前を歩いていってしまった。
 しばらく呆然とその背中を見つめていると、柚葵の髪が跳ねていることに気づいた。

「それはあんたでしょ」

 その声は柚葵には届かなかった。

 その後も、社内にいても柚葵は変に絡んできた。
 仕事上の最低限の会話と、変に冗談を言ってくるところはいつも通りなんだけど、少し以前と違うのは絡み方に遠慮がある感じがする。

 そう、今まではもっと彼は笑っていた。
 けれど、今日は真顔が多い。

「ああ、やっぱりこの前のことを気にしているのかな」

 カフェスペースの自販機でコーヒーを買っていたら、となりから声をかけられた。

「何か悩んでいるのか?」

 その声にどくんと鼓動が鳴った。

 恐る恐る顔を横に向けると、そこに恭一さんが立っていた。

 彼は以前と変わらないような雰囲気で、穏やかに微笑んでいる。
 まるで昨日会ったばかりのように、気さくな笑顔と口調だった。

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