しゃべりたかった。
しゃべりかった。

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しゃべりたかった。
 本当だ。
 でも、どう思われるか考えてしまって、ドキドキしてしまって、言えなかった。
 そんな自分がイヤだった。
 このことをお母さんに相談して病院へ行くと、“場面緘黙症”と言われた。
 病名がわかっただけで、なんだかほっとした。
 自分だけじゃないんだ…って。
 場面緘黙症は不安症のひとつで、500人にひとりがなるそうだ。
 うちの学校が500人近くだから、わたししかいないということになる。
 別に授業はできるし、誰かとしゃべる以外なら困ることはない。
 ただ、人前に出る発表する時や、日直の時はドキドキしてしまう。
 それに場面緘黙は認知度が低くて、誤解がされやすいらしい。
 だから、場面緘黙児はあまり見つかりにくいらしい。
 だって、わたしのお母さんも知らなかったし、もちろんわたしも知らなかった。

 先生が言うには、ちょっとずつ人に慣れていくのが治療だそう。
 でも、一気にじゃなくて、ちょっとずつ、がいいらしい。

 ということで、教室に行くのではなく、別のところから行ってみることにした。
 それは、保健室。
 まずは、保健室の先生と打ち解けるのがいいということだった。


 ――
 下駄箱から教室じゃなく、保健室へ行く。

 ガラッとドアを開けると、保健室の先生が来てくれた。

「ああ、梨沙ちゃんいらっしゃい。」

 保健室の白い大きなテーブルに、宿題やら色々置かせてもらった。

 先生と打ち解けるといっても、どうしたらいいんだろう…
 と思った。
 先生忙しそうだし、わたしから話すなんてムリ…!

 と思ってオドオドしていると、先生から話してくれた。

「今日寒かったよねー。」

 わたしはうなずいた。

 1人で宿題をやっていると、1人の生徒が来た。

 すぐにその子の方へ先生が行った。
 どうやら怪我したようだった。

 わたしは気になったが、黙々と宿題をやった。

 その後も何度か生徒が来たが、わたしについて言ったり聞いたりしなかった。
 よかった、と安心した。


 給食も保健室で先生と食べた。

 それから帰る準備をして、家へ帰った。

「どう?これからも行けそう?」
 お母さんが聞いてきた。

 わたしはうなずいた。


 
 
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