雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「この話、お引き受けします。あなたと結婚させてください」

本物の夫婦になるわけじゃない。利害が一致しただけの関係だ。
私達の関係に恋愛感情はない。恋愛感情を持ってはならない。
それを分かった上でお互いに夫婦関係を成立させなければならない。
絶対に好きにならないと宣言できるほど、相手のことをまだよく知らない。
でも好きになってはならないと自分に言い聞かせることは大事だ。好きになってからじゃ遅いから。

「俺から言い出しておいてあれだが、本当にいいのか?」

偽装とはいえども結婚ともなれば相手の人生を大きく変えてしまう。
だからこそ、いざ本当に結婚…となると、途端に現実味が帯び、本当にそれでいいのかと不安になってしまう。
私だって軽い気持ちで言っていない。この男と同じくらい切羽詰まっている。

「いいですよ。これ以上良い条件はありませんから」

働きに出なくてはならない…という脅迫概念から解放される。それだけでも私の心の負担が軽くなる。

「確かにそうだな。それじゃよろしく頼むな」

これで私達の偽装結婚という契約が結ばれた。
これでお金の心配から解放されると思うと安堵した。

「こちらこそよろしくお願いします…」

少なからずともこの男を信頼していることは間違いない。
だから偽装結婚をすることを承諾した。この人ならいいな…と思ったから。
それ以上でもそれ以下でもない。まだお互いに名前すら知らないのだから。

「そういえば忘れてたな。自己紹介がまだだった…」

結婚よりも先に一番大事なことを忘れていた。お互いのことを知るということを…。

「俺の名前は須藤(すどう) 悠翔(はると)。年齢は二十八。次はあんたの番。あんたのことも教えて」

男の年齢は推測通りで合っていた。
どうやらあまり年齢が変わらないみたいだ。年齢が近くて安心した。

「私の名前は観月(みつき) 奈緒(なお)です。年齢は二十五歳です…」

男が年齢も教えてくれたので、こちらも一応年齢を教えた。
男の名は須藤さん…か。苗字で呼んだ方がいいのか、それとも名前の方がいいのか…。
夫婦になるのだから私も須藤になる。となると名前で呼んだ方が良さそうだ。
それに男は私よりも年上だ。さん付けで呼ぶべきか、或いは呼び捨てか。呼び方一つだけで悩む。
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