雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「大丈夫ですよって言ってあげたいんですが、どうしたって悠翔さんの方が緊張しますよね。お互いに事前に答えを準備しておくのはどうでしょうか。こう聞かれたらこう答えるという答え合わせをしておけば、多少緊張も和らぐかと…」

事前に準備したところで突拍子もないことが起き、アドリブを求められることもあるかもしれない。
それでも準備できることを準備しておくことは大事だ。その方が気持ちにゆとりが持てる。

「確かにそれも悪くないな。奈緒、ありがとう。それじゃ今から二人で準備しよっか」

それから二人で挨拶に向けて色々と準備を始めた。
本物の夫婦ではないが、一緒に準備を始めてより悠翔さんとの絆が深まったような気がした。


           *


双方の親へと連絡をし、挨拶をしに行く日が決まった。
まず先に悠翔さんのご両親へ挨拶をしに行く。
そう思った瞬間、急に緊張してきた。どんなに準備しても緊張だけはどうにもならなかった。

「奈緒、緊張してる?」

私の様子を見て心配になった悠翔さんが声をかけてくれた。

「緊張しますよ。だってご両親に挨拶するんですから」

本来、私は悠翔さんのご両親に挨拶をする立場ではない。
そんな私が悠翔さんの婚約者として挨拶をする。偽装結婚の婚約者として…。
事前準備はしたものの、上手く受け答えができるのか不安になってきた。
長らく引きこもっていた私には、このような任務は重責だ。

「うちの親に紹介したい人がいるって電話で伝えたら、すげー喜んでた。だから奈緒が想像してるよりもうちの親は奈緒のことを歓迎してる。色々根掘り葉掘り聞いてくるかもしれないけど、奈緒なりに答えてくれれば良いから。上手く答えようなんて考えなくて良いからな」

悠翔さんは不思議な人だ。私の緊張を一気に解いてくれた。

「ありがとうございます。そう言ってもらえて緊張が和らぎました」

とはいえども緊張が完全に解けたわけではない。もちろんまだ緊張している。
だけどそれは偽装結婚だからではなく、悠翔さんのご両親に会うからである。
しかし悠翔さんの言葉を聞いて、緊張が少しだけ和らいだ。
そのお陰で悠翔さんのご両親に会うのが楽しみになった。

「それなら良かった。それじゃそろそろ実家(うち)へ向かいますか」

もう逃げられない。始まってしまった偽装結婚。
覚悟を持って悠翔さんの実家へと向かった。ちゃんと手土産も用意して…。
ちなみに悠翔さんのご実家は、悠翔さんの住んでいるマンションの近くにあるため、電車に乗って悠翔さんの実家へと向かう。
電車に乗るのは久しぶりだ。人と接する機会を意図的に絶っていたため、電車に乗ることに緊張している…。
< 20 / 151 >

この作品をシェア

pagetop