雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「奈緒、大事な話がある」

悠翔さんの表情が急に真剣な表情へと変わった。
背筋がピンと伸びる。一体、今からどんな話が待ち受けているのだろうか。

「なんでしょうか?」

恐る恐る悠翔さんに訊ねてみた。先程よりも緊張感が増す。

「俺達は偽装結婚をすることになったが、いくら偽装結婚とはいえども、両家の両親に結婚の挨拶をしないわけにはいかない」

確かにそうだ。私達は一応、戸籍上では夫婦になるのだから。
親に黙っているわけにはいかない。結婚ともなると偽装とはいえどもちゃんと両家に挨拶しなければならない。

「確かにそうですね。うちの親にも話を通しておきます」

結婚は自分達だけの問題ではない。家族を巻き込むことになる。
その家族を欺くことになる。心苦しいが、私にはそれ以上に今の生活が必要だった。

「よろしく頼む。うちの親にも話を通しておくから」

悠翔さんのご両親…。婚約者の親に会うと思うと途端に緊張してきた。
今まで恋人の親に挨拶したことはなかった。挨拶するほど深い仲になったことはないし、恋愛経験もそこまでない。
偽装結婚だからこそ、ご両親と対面して粗相があってはならない。
そう思えば思うほど緊張してきた。ちゃんと婚約者として振る舞えるかどうか…。

「緊張してる?確かに俺は社長だけど、俺が自分で立ち上げた会社だから、うちの親は普通の親だよ。そんなに緊張しなくて大丈夫だから」

初めて会った時、起業したと言っていた。自分で会社を立ち上げるなんてすごいなと思った。
だからといって悠翔さんのご両親も社長とは限らない。私は勝手に自分でハードルを上げていた。
そのことに気づかせてくれた悠翔さんに感謝した。少しだけ肩の力を抜いてみることにした。

「悠翔さん、ありがとうございます。少しだけ緊張が和らぎました」

私に与えられた役目は、自分の想像以上に負担が大きくなっていた。
でも私一人が背負う必要はない。偽装結婚とはいえども悠翔さんと一緒に歩んでいくのだから。

「そうか。それなら良かった。…実は俺の方が緊張してて。奈緒の親に挨拶すると思うとね」

偽装とはいえども、結婚のお許しをもらいに挨拶をしなくてはならない。
それは緊張せずにはいられない。大切な娘さんをくださいと義理の父親に申し出るのだから。
しかもこの結婚は偽装結婚。本当の結婚ではないことがバレないかどうかという不安もある。
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