雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「奈緒、どうぞ」

私が乗る前に助手席側のドアを開けてくれた。
こういうさり気ない気遣いから悠翔さんは女性にモテてきたんだろうなというのが窺える。

「悠翔さん、ありがとう」

「お礼を言われるほどのことでもないよ。女性を車に乗せるんだから当然のことさ」

サラッとそれを言えるのが、私からしたら凄いことだ。
悠翔さんは社長になるべくしてなった人なんだと思った。

「奈緒、実家の住所をナビにセットして」

悠翔さんにお願いされたので、ナビに実家の住所をセットし、実家まで連れて行ってもらうことに…。

「それじゃ奈緒の実家へ向かいますか」

準備も整ったので、いざ実家へ…。
最後に実家に帰ったのはいつだろうか。覚えていないくらい前だ。
まさか偽装結婚の挨拶のために久しぶりに実家へ帰ることになるなんて…。
きっとこの偽装結婚がなかったら、実家に帰ろうなんて思わなかった。
ずっと両親には引きこもっていたことは黙っていた。心配させたくなかったし、実家に戻りたくなかった。
でもいずれは貯金が底を尽きたら生活ができないため、実家に戻らないといけないと思っていた。
戻らなくてよかったのは不幸中の幸いであったが、まさか自分が偽装結婚することになるとは思ってもみなかった。
偽装だと知らない両親は娘の結婚を祝福してくれるはず。そして絶対に聞かれるであろう。結婚式のことや子供のこと…など。
そちらに関しても事前に考えておいた答えがある。それを答えるだけだ。
昨日の悠翔さんみたいなアドリブは、私には苦手なので考えられない。
でももし求められる時がきたら、私もアドリブで答えるしかない。
極力アドリブを求められる場面が少ないことを願った。

「奈緒は兄弟とかいるのか?」

悠翔さんに唐突に質問をされた。車内で無言は厳しいのであろう。
私も車内でずっと無言は厳しいので、悠翔さんの問いに答えた。

「いますよ。弟が一人います」

今日は親へ挨拶をするだけだし、弟も実家を出ているため、実家にはいないと思う。

「そうなんだ。何歳下なの?」

「二歳下です。悠翔さんは?」

「俺は一人っ子。兄弟がいないから羨ましい…」
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