雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「悠翔が羨ましいよ。こんなに美味しい手料理が毎日食べられるんだからな」

そんなふうに言われると恥ずかしくて照れてしまった。

「だろ?毎日美味しい料理が食べられて本当に幸せ」

満面の笑みで悠翔さんはそう言った。
悠翔さんがそう思ってくれていたことが嬉しくて。私も同じ気持ちだ。

「今日は突然、押しかけてすみません。しかも手料理が食べたいなんてリクエストして困りましたよね?」

困ってはいないが、お家にお邪魔したいと聞いた時は戸惑いを隠せなかった。
私達の関係が偽りの関係ではなければ、こんなことで一々動揺なんてしないのかもしれない。
でも私には心の準備が必要で。どう振る舞えばいいのかたくさん悩んだ。

「石動さんのお口に合うか不安でしたが、料理自体は全然大丈夫ですよ」

「そう言って下さり、ありがとうございます。実は俺、ずっと悠翔を心配していたんです」

石動さんが悠翔さんを心配する気持ちはよく分かる。突然結婚したなんて報告を受けて、驚かない人はいない。
つまり私がちゃんとした人かどうか、石動さんは確認をしに来たということである。

「突然、結婚したっていう報告を受けまして。彼女がいる素振りなんて全然なかったので、いつ彼女ができたんだ?!って。だからすみません。悠翔の結婚相手がどんな人なのか心配で。今日はお家にお邪魔させてもらいました」

実際にお会いしてみて、石動さんの私に対する印象はどうだったのだろうか。合格圏内にいることを心の中で願った。

「踏み込んだ質問をしますが、奈緒さんは悠翔のどこが好きなんですか?」

絶対に聞かれると思っていた質問だ。まさか本当に聞かれるとは。
前回と違って、悠翔さんと打ち合わせはしていない。自分の気持ちを素直に答えてこそ意味があると判断した。
だから私は自分の素直な気持ちを答えた。本当の気持ちを伝えられるのは今日だけだから。

「私を温かく深い愛情で包み込んでくれるところ…です」

生き方が分からず、挫折していた私に手を差し伸べてくれたのは悠翔さんだった。
あの時、たまたま悠翔さんとぶつかっていなければ、こんなふうに悠翔さんの隣で夫婦のふりをすることなんてなかった。
私は本当に運に恵まれていると思う。どんなに感謝してもしきれない。これからもその気持ちを忘れずに、日々感謝して生きていこうと思っている。

「奈緒さんは悠翔のことをよく見てるんだね。そして悠翔のことが大好きなんだね」

石動さんにそう言われて、私は首を縦に頷いた。
いつもだったら自分の気持ちを隠さないといけないのに、今日は隠す必要がない。
嘘をつかなくてもいいというのが逆に私の心のハードルが低くなって。悠翔さんへの想いを隠さずに堂々とできるのが寧ろ嬉しかった。
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