雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「えっと…そうですね、驚きはしましたが、嫌な気はしませんでした」

正直なことを言えば、最初は怖かった。いきなり知らない男の人の家に連れて来られたから。
でも悠翔さんは私を暗闇から救ってくれた恩人だ。感謝してもしきれないぐらい、恩を感じている。

「お互いに一目惚れだったんだね。それはもう運命だね」

悠翔さんと出会ったのは偶然なので、ある意味運命かもしれない。
でも石動さんが想像している運命とは違う。本当のことは言えない。心の中だけに留めておいた。

「そうだな。俺にとってかけがえのない、たった一人の運命の人だよ」

“たった一人の運命の人”…。その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
悠翔さんはどういう気持ちで言ったのだろうか。きっとこの言葉に深い意味なんてなく、石動さんを欺くために言っただけに過ぎない。
それでも私は期待してしまう。私と悠翔さんが本当に運命の赤い糸で結ばれていたらいいなと。

「悠翔がそんなキザなことを言うようになるなんてね」

「うるせー。別にいいだろ。…ちょっと酔い覚ましにトイレに行ってくる」

恥ずかしかったのか、悠翔さんは照れ隠しに席を立った。本当にそのままトイレへと行ってしまったみたいだ。

「悠翔は弄りがいがあるな」

石動さんは悠翔さんの反応を見て面白がっている。
私はそんな悠翔さんを見て、いつもと違って可愛いなと思った。

「奈緒さん、悠翔と出会ってくれてありがとう」

どうして石動さんが感謝しているのか、この時の私にはまだ分からなかった。
でもまさかこの後、この言葉の意味を知ることになるなんて、この時の私は知る由もなかった。

「いえいえ。こちらこそ悠翔さんと出会えたことに感謝してます」

「それはこちらこその台詞ですよ。本当に悠翔は奈緒さんに出会ってから変わりましたから。仕事人間だったのが仕事以外にも興味を持つようになって。表情も明るくなりました。本当に奈緒さんのお陰です。ありがとうございます」

石動さんが頭を下げてきた。石動さんにこんなにも感謝されるほど、私は何もしていない。寧ろ私の方が悠翔さんにたくさん助けられている。
でも私と出会う前の悠翔さんを私はよく知らない。悠翔さんが過去に何があったのか分からないが、何かあったことだけは石動さんの口ぶりから察した。
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