救う気ゼロの大魔法使いは私だけに夢中。~「迎えに来るのが遅くなってごめんね」と助けてくれた見知らぬ美形に話を合わせてみたら~

09 見えない過去

 少しの風にでも靡くようなさらりとした黒髪は、そのままで良いだろう。

 ルーファスの凜々しくも整った顔に良く似合い、夜会で相応しいように撫で付けていないからと、主催者も誰も文句は言うまい。

 黒を基調とした貴族服には金糸銀糸で複雑な刺繍が施されていて、まるで誂えたかのようにルーファスに似合っていた。

 外見は完璧な貴公子だ。彼が魔法使いで普段は黒いローブを羽織っていると教えられれば、人は驚くだろう。

(……もし、これを注文しようと思えば、二月間ほどは掛かるのではないかしら。本当に魔法って凄いわ)

 こうして便利な魔法ではあるが、そもそも生まれた時に魔力を持っていないと使えない。サブリナは魔法を使えることはないだろう。

「あの……ルーファス。私も夜会用のドレスに着替えるために、一度ラディアント伯爵邸へ帰宅しますわ。また……迎えに来てくださいます?」

 ルーファスの準備はこれで整っただろうが、貴族令嬢たるサブリナの準備は長く掛かってしまう。

「……僕が君の準備もすることは、出来るけど?」

(それはつまり、私の服も魔法で変えられてしまうということよね……本当に凄いわ)

「とてもありがたいことですけど、それは、ご遠慮しておきます」

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