ブランケット彼氏にサヨナラを
#4 魔女の糸
「魔法の糸? あの人ならそういうこと言いそうね。」
お母さんは萌々のために取り分けた夕飯のサンマの身を解しながら、ボクの話を鼻で笑った。
お母さんとおばあちゃんは仲が悪かったみたいで、おばあちゃんの話になるとお母さんは決まって不機嫌な顔をする。
でも、お母さんにしかおばあちゃんの情報を聞くことができないから、ボクは我慢して話を続けた。
「その糸で縫ったら物が動いたとか、人形が人間になったとか、そういう話を聞いたことはない?」
「なにそれ。おとぎ話?」
「通信教育の課題で、家にまつわる不思議な話を作文にしたいの。」
まるで口から出まかせ。
横で笑うのを必死に抑えているユウくんが憎たらしい。
(誰のせいで慣れないウソをついてると思ってんの?)
ボクは醤油を浸した大根おろしをたくさん乗せて、良い焼き目がついたサンマにかぶりついた。
お母さんは、思い出したように急に口に手を当てた。「そういえば!」
「不思議といえば小学生の頃、おばあちゃんが縫ったぬいぐるみが喋った夢を見たわ。」
「なんて喋ったの?」
「捨てないでって。」
ボクは息を飲んで箸を止めたけど、萌々がこぼすご飯つぶを気にかけているお母さんは気づかない。
「前の日に処分しようかと話していたから、気になっていて夢に見たんだと思う。でも、なんとなく捨てられなくてね。
結局いとこにあげたんだけど、そのいとこもぬいぐるみが喋る夢を見たらしいの。」
「なんて言ってたの?」
「ん、何だっけ。・・・覚えてないわ、大昔だもの。」
「あとは? おばあちゃんが実は魔女で魔法を使ったとかは?」
「魔法? 変なことを覚えているのね。
あの人が魔女だとしても、私は興味ないわ。」
お母さんは苦々しく吐き出すように語った。
「あの人は家でお針子の仕事をしていたの。いつも忙しくしていて私と妹は常に放置されていた。
授業参観や運動会になんて観に来たこともなかったわ。
それなのに、萌音が生まれてからは仕事を辞めて急に子育てに協力するようになってね。
死ぬまで自分勝手だったわね、あの人は・・・萌々、寝ちゃダメよ。」
萌々が食べながらコクリと眠ってしまい、お母さんは萌々をソファに運んだ。
ボクはそれ以上、お母さんと話をするのは諦めた。
お母さんからおばあちゃんの話を聞き出す作戦は失敗だ。
何か、別の方法を考えなきゃ。
※
夕飯後、お母さんはお酒が進んで酔いつぶれて寝てしまった。
こうなると眠気から復活した萌々をお風呂に入れたり、ちゃんと寝るまで相手をするのがボクの役目になってしまう。
ああ~面倒くさい。
でも、やらなきゃ。
「萌々、お風呂入るよ。」
ユウくんとブロック遊びをしていた萌々に声をかけると、萌々がキンキンの高い声で叫んだ。
「やだー。まだユウくんとあそぶー!」
「もう、わがまま言わないで!」
お母さんが起きたら、萌々の発言を誤魔化すのが面倒だ。
イラッとして怖い声を出すと、ユウくんが横から優しく口を挟んだ。
「じゃあ、ユウくんとお風呂入る?」
「ユウくんと入る!」
嬉しそうにユウくんに懐く萌々が小型犬に見える。
「いいの?」
「うん、僕もお風呂に入りたいから。
あ、でも萌々にパジャマを着せるのは萌音に任せてもいい?」
「もちろん。じゃあ、出る時に呼んでね。」
二人は子供番組の歌を口ずさみながら浴室に消えた。
(ユウくんて、パパみたい。)
なんだかほっこりするな。
ボクも歌を口ずさみながら萌々のパジャマと下着の替えの準備をした。
※
ユウくんと萌々はなかなか出てこなかった。
いつ呼ばれるかとドキドキしながらテレビを見ていると、浴室からキャッキャという萌々の楽しそうな声が聴こえてきた。
楽しそう。
ボクはいつも泣く萌々を叱るばっかりで、こんなに楽しくお風呂に入れたことないな。
「萌音ー出たよー。」
ユウくんの大きな声が部屋に響いた。
リビングで酔いつぶれているお母さんが起きないかヒヤヒヤするけど、ユウくんが見えてないなら声も聴こえないのかな。
ボクは萌々のタオルと下着を持って浴室の横戸を引いた。
「キャハハ!」
裸で飛び出してきた萌々がボクにドンとぶつかり、ボクはその衝撃で仰向けに倒れた。
「いったぁ・・・クソガキめ~。」
「萌音、大丈夫?」
タオルを腰に巻いただけの半裸のユウくんがボクを助け起こそうとして、思わずボクは両腕をあげて悲鳴をあげた。
「キャーッ!」
「何があったの⁉」
状況を理解していないユウくんが心配して、ボクに抱きつく。
(お、おう・・・。)
裸で抱きつかれているはずなのに、やっぱりブランケットの優しい感触がボクの体に染み渡る。
(ああ、癒される・・・じゃなくて!)
「ちっ、違うの、ダイジョブ、ダイジョーブだからぁッ!」
ユウくんの件は早急になんとかしなくちゃならない。
だって毎日これなら、ボクは心臓がもたない!
お母さんは萌々のために取り分けた夕飯のサンマの身を解しながら、ボクの話を鼻で笑った。
お母さんとおばあちゃんは仲が悪かったみたいで、おばあちゃんの話になるとお母さんは決まって不機嫌な顔をする。
でも、お母さんにしかおばあちゃんの情報を聞くことができないから、ボクは我慢して話を続けた。
「その糸で縫ったら物が動いたとか、人形が人間になったとか、そういう話を聞いたことはない?」
「なにそれ。おとぎ話?」
「通信教育の課題で、家にまつわる不思議な話を作文にしたいの。」
まるで口から出まかせ。
横で笑うのを必死に抑えているユウくんが憎たらしい。
(誰のせいで慣れないウソをついてると思ってんの?)
ボクは醤油を浸した大根おろしをたくさん乗せて、良い焼き目がついたサンマにかぶりついた。
お母さんは、思い出したように急に口に手を当てた。「そういえば!」
「不思議といえば小学生の頃、おばあちゃんが縫ったぬいぐるみが喋った夢を見たわ。」
「なんて喋ったの?」
「捨てないでって。」
ボクは息を飲んで箸を止めたけど、萌々がこぼすご飯つぶを気にかけているお母さんは気づかない。
「前の日に処分しようかと話していたから、気になっていて夢に見たんだと思う。でも、なんとなく捨てられなくてね。
結局いとこにあげたんだけど、そのいとこもぬいぐるみが喋る夢を見たらしいの。」
「なんて言ってたの?」
「ん、何だっけ。・・・覚えてないわ、大昔だもの。」
「あとは? おばあちゃんが実は魔女で魔法を使ったとかは?」
「魔法? 変なことを覚えているのね。
あの人が魔女だとしても、私は興味ないわ。」
お母さんは苦々しく吐き出すように語った。
「あの人は家でお針子の仕事をしていたの。いつも忙しくしていて私と妹は常に放置されていた。
授業参観や運動会になんて観に来たこともなかったわ。
それなのに、萌音が生まれてからは仕事を辞めて急に子育てに協力するようになってね。
死ぬまで自分勝手だったわね、あの人は・・・萌々、寝ちゃダメよ。」
萌々が食べながらコクリと眠ってしまい、お母さんは萌々をソファに運んだ。
ボクはそれ以上、お母さんと話をするのは諦めた。
お母さんからおばあちゃんの話を聞き出す作戦は失敗だ。
何か、別の方法を考えなきゃ。
※
夕飯後、お母さんはお酒が進んで酔いつぶれて寝てしまった。
こうなると眠気から復活した萌々をお風呂に入れたり、ちゃんと寝るまで相手をするのがボクの役目になってしまう。
ああ~面倒くさい。
でも、やらなきゃ。
「萌々、お風呂入るよ。」
ユウくんとブロック遊びをしていた萌々に声をかけると、萌々がキンキンの高い声で叫んだ。
「やだー。まだユウくんとあそぶー!」
「もう、わがまま言わないで!」
お母さんが起きたら、萌々の発言を誤魔化すのが面倒だ。
イラッとして怖い声を出すと、ユウくんが横から優しく口を挟んだ。
「じゃあ、ユウくんとお風呂入る?」
「ユウくんと入る!」
嬉しそうにユウくんに懐く萌々が小型犬に見える。
「いいの?」
「うん、僕もお風呂に入りたいから。
あ、でも萌々にパジャマを着せるのは萌音に任せてもいい?」
「もちろん。じゃあ、出る時に呼んでね。」
二人は子供番組の歌を口ずさみながら浴室に消えた。
(ユウくんて、パパみたい。)
なんだかほっこりするな。
ボクも歌を口ずさみながら萌々のパジャマと下着の替えの準備をした。
※
ユウくんと萌々はなかなか出てこなかった。
いつ呼ばれるかとドキドキしながらテレビを見ていると、浴室からキャッキャという萌々の楽しそうな声が聴こえてきた。
楽しそう。
ボクはいつも泣く萌々を叱るばっかりで、こんなに楽しくお風呂に入れたことないな。
「萌音ー出たよー。」
ユウくんの大きな声が部屋に響いた。
リビングで酔いつぶれているお母さんが起きないかヒヤヒヤするけど、ユウくんが見えてないなら声も聴こえないのかな。
ボクは萌々のタオルと下着を持って浴室の横戸を引いた。
「キャハハ!」
裸で飛び出してきた萌々がボクにドンとぶつかり、ボクはその衝撃で仰向けに倒れた。
「いったぁ・・・クソガキめ~。」
「萌音、大丈夫?」
タオルを腰に巻いただけの半裸のユウくんがボクを助け起こそうとして、思わずボクは両腕をあげて悲鳴をあげた。
「キャーッ!」
「何があったの⁉」
状況を理解していないユウくんが心配して、ボクに抱きつく。
(お、おう・・・。)
裸で抱きつかれているはずなのに、やっぱりブランケットの優しい感触がボクの体に染み渡る。
(ああ、癒される・・・じゃなくて!)
「ちっ、違うの、ダイジョブ、ダイジョーブだからぁッ!」
ユウくんの件は早急になんとかしなくちゃならない。
だって毎日これなら、ボクは心臓がもたない!