虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
陽依は地元の大学を卒業して、母の指導のもとで女将修行の日々を送っていた。
平穏な日々が続いていたが、突然、祖父が亡くなってしまった。
ワンマン経営をしてきた人だから母とは折り合いが悪かったが、やはり大きな存在だった。
父はうろたえるし、母はイライラと落ち着かない。ふたりは顔をあわせれば喧嘩ばかりしていた。
両親が不仲なのは知っていたが、陽依にはどうすることもできなかった。
おまけに祖父はとんでもない遺言を遺していた。
『対鶴楼の経営は、古くからの友人が援助してくれる約束だ』
『陽依か真矢のどちらか、選ばれた方が対鶴楼を継ぐように』
旅館の経営が厳しいなんて、考えたこともなかった。援助してもらわなくてはいけないなんて、信じられない。
しかも由緒ある対鶴楼を受け継ぐのは自分だと信じていたのに、真矢まで候補になっている。
母はこれまで見たことがないくらい怒り狂っているし、逆に父は無言を通している。
どうすればいいのか、陽依にはわからない。
これまで存在すら無視してきた真矢が、同じ後継者候補として隣にいるのだ。
「対鶴楼を継ぐ気はありません」
真矢はそう言うが、母は信じない。
「きっと長男の忘れ形見だからって、お義父様にあれこれ陰で頼んでいたのよ。そうじゃなけりゃ、あんな遺言を書くわけないわ」
そういえば高校時代に、真矢が旅館の雑用をしている様子を祖父はじっと見ていたのを思い出した。
陽依がお稽古に行ったり友人と遊んだりしていたときに、真矢は祖父に取り入っていたのだろうか。
母は真矢を嫌っているはずなのに、銀座の明都ホテルを辞めさせてまで対鶴楼で働かせ始めた。
庶務担当とは名ばかりで、仲居として客の接待をさせているかと思えば事務作業にも使っている。
人手が足りないとはいえ、母はなにを考えているのか陽依にはさっぱりわからなかった。
そんなある日、東京から目立つ男性たちのグループがやってきた。