虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


会社の研修だと聞いていたが、対鶴楼では観光以外の宿泊客は珍しい。

スーツ姿の男性たちの中でも、黒縁のメガネの男性は背が高くてきりっとした顔だちだった。

この辺りでは見かけない洗練された雰囲気に、陽依は興味がわいてきた。
話しかけたり、出かけるときにも見送ったりしてアピールしてみた。

いつもなら陽依が声をかけた男性は嬉しそうにするはずなのに、その人だけ反応が違った。
こんな経験は初めてだった。男の人はいつも陽依のために何でもしてくれた。
どこへでも連れて行ってくれるし、ほしいものは何でも手に入る。
それが陽依の自慢だった。美しい自分は、何をしても許されるのだ。

あの人が陽依に興味を持たないのは、きっと真矢が出しゃばってきたからだ。
仲居の仕事をしている真矢が大切なお客様の観光案内をするなんて、とんでもない話だ。

明都ホテルを辞めてこの町に帰ってきてから、真矢が精力的に働いているのは知っていた。
旅館の仕事をあっという間に覚えたと思ったら、和文字堂にいる弟やその仲間たちと、地元の観光振興について話し合うようになっているらしい。

町の将来を考えているとアピールしつつ、旅館を継ぐ気がないと言い張っていると思うと余計に腹立たしくもあった。

そして、また大きな転帰がやってきた。
対鶴楼の経営が思わしくないと足元を見られたのか、明都ホテルグループが買収を申し込んできた。
そこまで経営状態が悪いことは、陽依には知らされていなった。

対鶴楼にやってきた明都ホテルグループの人たちの顔を見て、陽依は目を疑った。

(あの人だ)

メガネをはずしていたが、真矢がわざわざ古い町並みを案内していた人だ。
都々木岳といえば、明都ホテルグループの御曹司に違いない。

(真矢は知っていた?)

だからわざわざ御曹司とふたりきりで出かけていたとしたら、対鶴楼への裏切りだ。

(真矢が御曹司を狙っていたなんて)

そこまで真矢が計算高い女だとは思ってもいなかった。
このままでは、次期女将になるために努力してきた陽依はどうなるのだろう。
不安がさらに不安を呼ぶ。

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