虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
怒りなのか、むなしさなのかスッキリしないまま、陽依は祖父の書斎に入った。
亡くなってから誰もここには手を付けていないから、手紙や書類は以前のままのはずだ。
(どうしてこんなことに……)
このまま黙ってはいられない。真矢の婚約がひっくりかえるようものが残されていないだろうか。
陽依が対鶴楼の後継者になれる道、もしくは真矢より上の立場になれる方法が残されていないだろうか。
手あたり次第、部屋の中を漁った。
(なにか、なにか逆転できるものがあれば)
そう思っていたら、本棚の奥に漆塗りの手文庫があった。中には何通もの手紙が入っている。
まるで文通していたような量だが、相手の名字を見てハッとした。
(都々木?)
中身をじっくり読んで、ある考えが、陽依にひらめいた。さっそく母に頼みごとをする。
「明都ホテルグループの、前に社長に会いたいの」
それが陽依にとって、最善の策になるはずだ。
***
夏が過ぎ、風が心地よく感じられる季節。陽依は田園調布にある都々木邸を訪れていた。
通された客間で陽依を待っていたのは、ひとりの老人。
「初めまして。鶴田陽依と申します」
季節を先取りした紅葉と萩の花の絵柄の小紋につづれ帯をあわせており、どちらかというと品のある装いだ。
まぶし気に目を細めて陽依に対面しているのは岳の祖父、先代の明都ホテルグループ社長だった。
「本日はお願いがあってまいりました。わたくしの祖父とのお約束、どうか果たしてくださいませ」
陽依にとって、目の前の老人の力が必要なのだ。
「わたくしを岳さんの妻に選んでいただけたなら、対鶴楼の土地や建物、経営権のすべてが都々木家のものですわ」
優美に微笑む陽依は、真矢から岳を奪うことしか考えていなかった。