虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
そんな陽依に、母が素晴らしい話を聞かせてくれた。
どうやら母は経営が思わしくないから、水面下で支援者を探していたらしい。
それが高杉建設だというのだ。
しかも邪魔な真矢を高杉社長の後妻として押し付けるという、陽依にとって最高の案だった。
真矢さえ出ていけば、遺言のようにふたりのうちどちらを選ぼうにも対鶴楼には陽依しかいないのだ。
買収計画は阻止できるし、後継者は陽依で決まりになる。
見合いの話を聞かされていないのか、真矢が仲居の姿のままで高杉社長の前に出ようとしている。
それを見て、さすがにかわいそうになった。いい着物に着替えさせてあげようかという気になったが、思いとどまった。
(都々木さんを独占していた罰よ)
その夜、陽依が見合いの結果を聞こうとしたときには。もう真矢はどこにもいなかった。
見合いはうまくいったらしいのだが、真矢が高杉社長との縁談を断って対鶴楼を出ていったのだ。
これまで言いなりになってきた真矢に、父や母に逆らう強さがあるとは驚きだった。
翌日には、もう旅館中に真矢の家出は知れ渡っていた。
「いつも黙って女将さんに従っていたのにねえ」
「やっぱり、いつか出て行くと思ってたわ」
仲居たちがコソコソとうわさしているのが耳障りだった。
おまけに明都ホテルグループの御曹司から、父に衝撃的な電話があったらしい。
「真矢は明都ホテルグループに出向する形になる」
父は淡々と話していたが、母は唖然としている。
「もう買収ではない。真矢のおかげで明都ホテルグループからの支援を受けられるんだ」
父の言葉を喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない。
「真矢と都々木さんは、婚約したそうだ」
最後に父が言った言葉は、すぐには信じられなかった。
ただ、陽依より真矢のほうが立場が上になるということだけはわかった。