虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
楽しい時間を過ごしたあと、また町を散策しながら旅館に戻る。
「それではお疲れさまでございました」
真矢の言葉で、参加したメンバーは解散になった。
名所旧跡を回るだけでなく、こんな観光も価値があると岳は思った。
ずっと観光客に付き添っていた真矢は疲れただろう。そう思って真矢を見たら、次の仕事があるのか急いで旅館の中へ入って行くところだった。
どうもほかの仲居に比べて、真矢の仕事量は多いような気がする。
それが裏付けされたのは、遅い昼食のあと岳が喫茶室にいた時だ。
喫茶といってもコーヒーと紅茶しかないが、わざわざ近くのカフェに出かけるのも面倒だ。
ソファーに座って森川と情報交換をしていたら、フロントの奥から彼女が出てくるのが見えた。
そこは事務室のようで、あまり仲居が出入りする場所ではない。どうやら事務の仕事まで受け持っているようだ。
「岳さん、どうかされましたか?」
「いや、別に」
岳の視線の先にいるのが真矢だと気がついたのか、森川が怪訝な顔をする。
「彼女、部屋に案内してくれた仲居さんですよね」
「ああ」
「普段は制服なんだ」
あたり前のように森川は言うが、仲居と事務職は兼任できるほど簡単ではないような気がする。
人手が足りないのはどこの業界も同じだが、彼女はいったいどれくらいの仕事をこなしているのだろう。
事務能力があり、通訳をしたり建物の由来を解説したりする知性もある。品のよさは、持って生まれた気質かもしれない。
そんな彼女の実力は正当に評価されているのだろうか。
もう明都ホテルグループの社員ではないのに、彼女のことを気にしている自分に呆れつつ、岳は森川と連れ立って喫茶室をあとにした。