虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
和菓子屋まで歩いて行く途中、観光客に町の説明をしている真矢を見ていたら、パーティーで招待客に気を配っていた姿がよみがえってきた。
(そういえば、仕事ができるって評判だったな)
あのあと宴会企画部での真矢の仕事ぶりを聞いてみたが、惜しまれての退職だった。
できれば復帰してほしいくらいだと上司が言っていたのを思い出した。
真矢は対鶴楼でもがんばっているようだ。観光客たちの質問にも丁寧に答えている。
それに岳が知りたいと思っているポイントがわかるのか、建築条例について話してくれる頭の回転のよさと気配り。
この町を彼女と巡りたくなって、強引に案内役を頼んでしまった。
和菓子作りの見学はとても楽しめた。
別に甘いものが好きというわけではないが、まるで工芸品を作るように手を動かしていく職人技は見ごたえがある。
さすがに素人が道具を使って形を整えるのは難しいだろうが、観光客向けにはぴったりの茶巾絞りで練りきりを作るように準備されていた。それも季節感を意識してか、色素で青や黄色の色を付け、菖蒲の花をイメージしたものだ。
配色の加減でひとりひとり違った色合いになるから、外国人観光客たちは大喜びしていた。
「おじょうずです」「もう少し力を入れてください」
岳は少し離れた場所から、専門的な職人の言葉を分かりやすく通訳している真矢を見ていた。
昨日見かけた若い男性は和文字堂の若主人らしく、店のスタッフたちからずいぶん慕われている。
真矢とも笑顔でアイコンタクトをとっているようで、仕事上の付き合いだけかなと余計なことまで考えてしまった。
見学と和菓子作りの体験はあっという間に終わった。
観光客たちは自分で作った菓子と抹茶を味わって、とても満足したようだ。