虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
もうすっかり日が暮れた柳並木には人通りもない。
(私、何を相手に戦っていたんだろう)
結局ひとり相撲だったから、何の意味もなかった。すべてが虚しくて、もう体に力が入らない。
家の近くまで歩いたところでスマートフォンが鳴った。都々木岳と画面に表示されている。
真矢はためらうことなく電話に出た。
「もしもし」
『都々木だ。今日から働いているのか?』
「いえ、あの」
ギュッと胸が締め付けられるように痛くて、言葉が続かなかった。
岳の声を聴いただけで、目の奥がじんわりと熱くなってくる。
『なにか、あったのか?』
電話に出たときの声のトーンがいつもと違っていたのかもしれない。
真矢が黙り込んだので、岳は心配そうに尋ねてくれる。
ふいに真矢は土曜日の夜の会話を思い出した。岳は「無理をしないこと。困ったら、俺を頼ってほしい」と言ってくれたのだ。
それに「君ひとりじゃ出来ないことでも、なにかの形で力になれるかもしれない」とも。
真矢に迷いはなかった。
「助けてください」
『え?』
「助けて……」
その後は涙があとからあとからこぼれてきて、うまく話せなかった。