虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
真矢は中学生の時にこの町に来てから、叔父夫婦の前では泣くことも怒ることもなく過ごしてきた。
感情をあらわにしたら負けだとおもってきたからだ。
「高杉社長は再婚だけどお金持ちだし、次の市長選に出るんじゃないかっていわれているの」
「前の奥様との間にお子さんがいらっしゃるけど、あなたとも子どもを作ってもいいっておっしゃってるわ」
「あなたは働き者だってお伝えしたら、会社でも役に立ってほしいんですって」
叔母がしゃべればしゃべるほど、静かな怒りが込み上げてくる。真矢はどうにか抑えようと両手をグッと握りしめた。
祖父が亡くなったことで、会社を辞めてここで働き始めた。
これまで何回も経営を改善するために、叔父たちと話し合おうとしてきた。
それを拒否してきたのに、対鶴楼の再建案が真矢を嫁がせて援助を仰ぐというものだったとは情けなくなってくる。
「お断りします」
「え?」
真矢が断るとは思っていなかったのか、女将が目を丸くした。
「私はこの縁談をお受けできません」
「真矢!」
「失礼します」
女将はあれこれ真矢のことを悪しざまにわめいていたが、もう聞きたくない。
真矢は支配人室を出て、そのまま家に向かって歩き出した。