バリキャリ経理課長と元カレ画家、今さら結婚できますか?

第一話「経理課長」

「おかしいでしょ、これ」

葉月理沙は、開発第2部長の沢田にタブレットを突き付けた。
モニターには、勤務報告システムの画面が映し出されている。

「見てください。山田さんも岡野さんも連日残業してるのに、稼働率が50%ってどういうことですか?」

理沙は淡々とした口調で言いながら、画面を指差す。

「スターウェーブモバイルのプロジェクト、本当は赤字じゃないですか?」
「……いや、それは——」
「一旦、差し戻します。修正申告をお願いします。その結果、赤字になるようなら、リカバリー計画と着地見込みを作成して経理に提出してください」

理沙の鋭い指摘に、沢田は渋い顔をした。

「……すまん。確認漏れだと思う」
「確認漏れ? 本当にそうですか?」

澄ました表情のまま問い返すと、沢田は一瞬、言葉に詰まった。
プロジェクト管理室の吉田が、理沙の後ろで小さくなっている。
彼もチェックが甘かったことを反省しているのだろう。

「よろしくお願いしますね」

理沙はそれだけ言い残し、経理部のオフィスへと戻った。
席に着くなり、低くつぶやく。

「ったく……確認漏れなわけないでしょ。赤字になると面倒だから、わざとチャージさせてないのよ。ルール違反もいい加減にしてほしいわ」

理沙はディスプレイの前で腕を組み、ふぅっと息を吐いた。
数字は嘘をつかない。
だからこそ、ごまかしを見逃すわけにはいかないのだ。
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