バリキャリ経理課長と元カレ画家、今さら結婚できますか?

第二話 「理沙の日常」

マンションのドアを開けると、静寂が迎えた。

時計の針は、すでに9時を回っている。
だが、遅い帰宅はもう当たり前。

「ふぅ……」

ヒールを脱ぎながら小さく息をつく。
バッグを適当にソファへ放り投げ、コンビニの袋をテーブルに置いた。
中からサラダと総菜を取り出し、冷蔵庫からビールと朝に炊いたご飯の残りを取り出す。

電子レンジにご飯を入れ、スイッチを押す。
温めている間に、缶ビールのプルトップを引いた。

プシュッ。

弾ける音とともに、わずかに広がる苦みのある香り。
冷えた缶を手に持ったまま、テレビをつける。

動画配信サービスを開き、流し見していたリアリティー番組の続きを再生する。
画面の中では、誰かが恋愛に一喜一憂している。

——この歳になって、恋愛を画面越しに眺める側になるとはね。

そんなことを考えながら、箸を動かす。
コンビニの総菜はそれなりに美味しいけれど、なんとなく味気ない。

ふと部屋を見渡せば、ベッドの上には脱ぎ散らかしたままの部屋着。
机の隅には、買っただけで一度も開いていないファッション誌が積まれている。
数年前は毎月欠かさず読んでいたのに、最近はページをめくる気力もない。

気づけば37歳。
管理職に昇進し、それなりに高収入も得ている。

仕事は充実しているし、不自由はしていない。
……なのに、心の奥で小さな棘がチクリと刺さる。

婚期を逃した、という現実が。

「……考えても仕方ないか。」

ビールを一口。
喉を落ちていく冷たい液体と一緒に、ため息を飲み込んだ。
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