true or false~銀縁眼鏡を外した敏腕弁護士は、清純秘書に惑溺する
その時、目の前に手が現れ、親指と中指を合わせると、『パチンッ!』と破裂音を鳴らした。

ふと顔を上げると、目の前にはマスターが・・・
「今、ケーキに魔法をかけました。それを食べたら、今日のことは忘れますよ。いいですね?」
「・・・はい」
零れ落ちそうな涙を拭いて、笑顔で返事をした。
「貴女は、笑顔が素敵ですから、自信を持ちなさい。また会いましょう」
穏やかな笑顔を向けた後、店を出て行った。

魔法をかけられたケーキ・・・美味しい・・・
マスターの言葉通りに、もう三多君とのことは忘れよう。

食べ終わる頃には、お客さんがいなくなり、私が最後になった。
お店に最後にいたのは、スーツの上からエプロンを掛けた『こまさん』と呼ばれるスタッフさんだった。
「最後になってすみません。あの・・・マスターにお代はいいと言われましたが、お支払いします」
「マスター?あぁ、お代はいいですよ。彼が払ってくれましたから」
「でも・・・」
「いいんですよ。彼の行為に甘えてください」
「では、お言葉に甘えます。とても美味しかったです」
「また、来て下さいね」
「はい、ご馳走様でした」
ニコニコと柔らかい表情のこまさんにお辞儀をして、外に出ると、ビルを見上げた。

月曜日、面接に受かるといいけど・・・
そうすれば、マスターに会えるから・・・
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