true or false~銀縁眼鏡を外した敏腕弁護士は、清純秘書に惑溺する
再会したあの日から、遊び目的だったんだ。
騙されて腹が立つというより、信じた自分が情けない。
あのまま一緒に家に行っていたら・・・

きっと、電話してきたのは、奥さん。
夜や休日に連絡が出来なかったのは、奥さんがいたから・・・

「自分が情けなくて、涙も出ません」
「深く傷つく前に分かって、良かったじゃないですか」
「はい・・・ありがとうございます。声を掛けて下さって」
「さぁ、もう忘れましょう。心聖に行きませんか?珈琲をご馳走しますよ」
「いえ・・・そんな気分になれなくて・・・」
「では・・・ケーキもお付けしましょう。最低な男と別れたお祝いです」
銀縁眼鏡の奥で、爽やかな目でウィンクするマスターは、私の前を歩き出した。

さっきまでの出来事は・・・悪い夢を見ていただけ・・・
今が現実。現実の世界には、推しのマスターが目の前にいる。

気持ちを切り替えて心聖に入り、カウンターに座るとマスターが来て、
「私は取り急ぎの仕事がありましてね。このケーキとコーヒーは、私からの気持ちですから。ゆっくりしていきなさい」
「・・・ありがとうございます。私、月曜日に、このビルの8階にある『片桐総合法律事務所』に面接に来ます。採用されたら、時々、お邪魔します」
「・・・そうでしたか。えぇ、楽しみにしてますよ」
マスターは、上着を着て、スタッフの傍に行き、話をしている。

見た目で無く、立ち振る舞いもカッコいい。
マスターの彼女さん、もしかして、奥さんはきっと素敵な人なんだろうなぁ・・・

この歳で付き合った人もいなくて、学生時代にフラれた人に、今度は騙されていた。
マスターが声を掛けずに、あのまま家に帰っていたら・・・
流されて付き合っていたかもしれない・・・
嘘をつかれていたとはいえ、奥さんを悲しませるところだった・・・

自分への憤りと情けなさで、フルーツタルトとカフェラテが、涙でぼやけていく。
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