ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜
番外編・愁と創太(side愁)
「婚約者がいるのに、天音にちょっかいかけるの、やめてもらえますか?」
店の片付けを終え、裏口から帰ろうとした時、いきなりそんな言葉が飛んできた。
強い口調とともに足音が響き、目の前に立っているのは一越創太。
天音さんの幼馴染だ。
彼の険しい表情からは、明らかに敵意が滲んでいる。
外で話すことでもないと思い、一旦店の中に彼を招き入れた。
「……えーっと、一越創太くん……だっけ? なんの話?」
僕が眉をひそめると、創太くんはぐいっと一歩踏み込んできた。
勢いがある割に、ほんの少し視線が泳いでいる。
頭に血が上っているのがよくわかる。
「風間律花さんと婚約してるんですよね? 本人が言っていました」
まったく、あの人は……。
僕は思わずため息をついた。
「……どういう関係?」
「質問に質問で返さないでくれます?」
「僕と風間さんが婚約した覚えはないけど」
そもそも、向こうが勝手に言い出したことだ。
僕はそれを断るために今、天音さんと一緒にレシピを考えている。
「じゃあ、なんで風間さんは婚約者だなんて言ってるんです?」
「さあ……? 君と同じで、思い込みが激しいのかもね」
「ムカッ……」
創太くんの額に青筋が浮かび、拳をぎゅっと握りしめる。
彼がこんなに感情をあらわにするほど、天音さんのことを大切に思っているのは明らかだった。
「じゃあ、こちらの質問に答えてもらおうか。風間さんと、どういう関係?」
「仕事上の関係です。百貨店の改装、うちが請け負ってるんで」
「僕も同じだよ。風間さんとは仕事上の関係だ。それに、天音さんにはちょっかいかけてるんじゃなくて、正式にお付き合いしてるんだ。君にどうこう言われる筋合いはないはずだよ」
創太くんの顔が一瞬こわばる。
「それは……そうだけど……」
「君は、天音さんが好きなんだろう?」
「ぐっ……」
僕が呆れたように言うと、創太くんはビクリと肩を震わせた。
「だけど、素直になれずに告白できていないってところか」
「むぐぐ……」
創太くんは歯を食いしばりながら、拳を強く握る。
その様子があまりにわかりやすくて、僕は小さく肩をすくめた。
「悪いけど、僕はちゃんと彼女に告白したよ」
……本人には恋人役と思われているが、告白したのは事実だ。
「それだけ思い込みが激しいのに、いざとなると尻込みしてしまうんだね。もったいないよ」
創太くんは口をつぐみ、ギリッと奥歯を噛む。
それでも、目の中の炎は消えていない。
「……じゃあ、ひとつ聞くけど」
創太くんは一歩、また一歩と僕に詰め寄った。
まるで、睨み合いでもするかのように。
「天音のこと、本当に大事にできるのか?」
今までの怒りとは違う、低く抑えた声だった。
もうすでに、敬語は消えている。
「大事にするって言葉は簡単だけどな、アイツは昔から人のために動くタイプだ。自分のことは二の次にするし、傷ついたって黙ってる」
「……」
「それをちゃんとわかってるのか?」
意外だった。
てっきり、感情的に喚くだけのタイプかと思っていたが、どうやら彼なりに本気で天音さんのことを考えているらしい。
「……さあ、どうだろうね」
天音さんが自分を後回しにする──確かに、そういうところはあるかもしれない。
でも。
「君が心配しなくても、僕はちゃんと見てるよ」
静かに言うと、創太くんの肩がピクリと動いた。
「……チッ」
舌打ちし、創太くんは背を向ける。
それでも、最後に一言だけ、振り向かずに言い放つ。
「……もし天音を泣かせるようなことがあったら、ただじゃおかねぇからな」
バタン、と裏口のドアが閉まる。
静かになった店内で、僕は深くため息をついた。
(面倒な幼馴染を持ったものだね、天音さん……)
店の片付けを終え、裏口から帰ろうとした時、いきなりそんな言葉が飛んできた。
強い口調とともに足音が響き、目の前に立っているのは一越創太。
天音さんの幼馴染だ。
彼の険しい表情からは、明らかに敵意が滲んでいる。
外で話すことでもないと思い、一旦店の中に彼を招き入れた。
「……えーっと、一越創太くん……だっけ? なんの話?」
僕が眉をひそめると、創太くんはぐいっと一歩踏み込んできた。
勢いがある割に、ほんの少し視線が泳いでいる。
頭に血が上っているのがよくわかる。
「風間律花さんと婚約してるんですよね? 本人が言っていました」
まったく、あの人は……。
僕は思わずため息をついた。
「……どういう関係?」
「質問に質問で返さないでくれます?」
「僕と風間さんが婚約した覚えはないけど」
そもそも、向こうが勝手に言い出したことだ。
僕はそれを断るために今、天音さんと一緒にレシピを考えている。
「じゃあ、なんで風間さんは婚約者だなんて言ってるんです?」
「さあ……? 君と同じで、思い込みが激しいのかもね」
「ムカッ……」
創太くんの額に青筋が浮かび、拳をぎゅっと握りしめる。
彼がこんなに感情をあらわにするほど、天音さんのことを大切に思っているのは明らかだった。
「じゃあ、こちらの質問に答えてもらおうか。風間さんと、どういう関係?」
「仕事上の関係です。百貨店の改装、うちが請け負ってるんで」
「僕も同じだよ。風間さんとは仕事上の関係だ。それに、天音さんにはちょっかいかけてるんじゃなくて、正式にお付き合いしてるんだ。君にどうこう言われる筋合いはないはずだよ」
創太くんの顔が一瞬こわばる。
「それは……そうだけど……」
「君は、天音さんが好きなんだろう?」
「ぐっ……」
僕が呆れたように言うと、創太くんはビクリと肩を震わせた。
「だけど、素直になれずに告白できていないってところか」
「むぐぐ……」
創太くんは歯を食いしばりながら、拳を強く握る。
その様子があまりにわかりやすくて、僕は小さく肩をすくめた。
「悪いけど、僕はちゃんと彼女に告白したよ」
……本人には恋人役と思われているが、告白したのは事実だ。
「それだけ思い込みが激しいのに、いざとなると尻込みしてしまうんだね。もったいないよ」
創太くんは口をつぐみ、ギリッと奥歯を噛む。
それでも、目の中の炎は消えていない。
「……じゃあ、ひとつ聞くけど」
創太くんは一歩、また一歩と僕に詰め寄った。
まるで、睨み合いでもするかのように。
「天音のこと、本当に大事にできるのか?」
今までの怒りとは違う、低く抑えた声だった。
もうすでに、敬語は消えている。
「大事にするって言葉は簡単だけどな、アイツは昔から人のために動くタイプだ。自分のことは二の次にするし、傷ついたって黙ってる」
「……」
「それをちゃんとわかってるのか?」
意外だった。
てっきり、感情的に喚くだけのタイプかと思っていたが、どうやら彼なりに本気で天音さんのことを考えているらしい。
「……さあ、どうだろうね」
天音さんが自分を後回しにする──確かに、そういうところはあるかもしれない。
でも。
「君が心配しなくても、僕はちゃんと見てるよ」
静かに言うと、創太くんの肩がピクリと動いた。
「……チッ」
舌打ちし、創太くんは背を向ける。
それでも、最後に一言だけ、振り向かずに言い放つ。
「……もし天音を泣かせるようなことがあったら、ただじゃおかねぇからな」
バタン、と裏口のドアが閉まる。
静かになった店内で、僕は深くため息をついた。
(面倒な幼馴染を持ったものだね、天音さん……)