ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

12・傷心

 夏の名残がわずかに残る九月中旬。
 吹き抜ける風は少しずつ涼しくなり、キャンパスの並木道もわずかに色づき始めている。

 大学の講義に課題、実習──毎日が慌ただしく過ぎていく。
 それでも、私はツアーコンダクターになる夢を叶えるために頑張っていた。
 世界中のスイーツや文化を、自分の言葉で誰かに伝えられる仕事がしたい。

 講義が終わり、大学の門を出て百合香と並んで歩いていると、視界の端に知った顔が映った。

「あれ、創太くんじゃない?」

 百合香も気づいたらしく、小声でつぶやく。

「ほんとだ、どうしたんだろ?」

 私は足を止め、そちらに目を向けた。
 創ちゃんは真っ直ぐこっちに向かってくる。
 眉間に深いしわを寄せ、何か言いたげな顔をしている。

(えっ、何? 何か怒ってる?)

 私が戸惑っているうちに、創ちゃんは目の前まで駆け寄り、息を切らしながら叫んだ。

「天音っ!!」
「は、はいっ!!」

 反射的に背筋が伸びる。
 創ちゃんの剣幕に、周囲の人もチラチラとこちらを見ているのが分かった。

「おまえ、やっぱり騙されてるんじゃないか!」
「えっ?」

 私は目を瞬かせる。騙されてる? 何の話?

「ちょ、ちょっと、なんの話?」

 私が言葉を探している間に、百合香がスッと私の前に出た。
 創ちゃんの勢いに警戒しているみたいで、少しだけ肩を張っている。

「聞いたぞ。おまえの彼氏……栗本さんだっけ? 高菱百貨店の風間さんと婚約してるって!!」
「へっ?」

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