最後の旋律を君に

消えゆく音

 発表会の熱気がまだ微かに残る楽屋。

 照明の落ちた静かな空間で、律歌は奏希と並んでソファに腰を下ろしていた。

 「本当にお疲れ様、律歌」

 奏希さんの穏やかな声が、静けさの中に優しく響く。

 「奏希さんも……ありがとう。今日は、本当に楽しかった」

 律歌が微笑むと、奏希さんも柔らかく微笑み返した。

 けれど、その表情にはどこか儚げな影が差している。

 「……君と一緒に弾けて、本当に良かった」

 その言葉が、なぜか遠くから響いてくるように感じた。

 「奏希さん?」

 違和感に気づき、律歌が顔を覗き込んだ瞬間――

 奏希さんの体が、ふっと力を失い、傾いだ。

 「え……?」

 理解が追いつくよりも早く、彼の重みが律歌に寄りかかる。

 「奏希さん!!」

 動揺しながら肩を揺さぶるが、返事はない。

 滲む冷や汗、苦しげな表情。

 「嘘……ちょっと、誰か!!」

 張り裂けそうな声が、静まり返った楽屋に響く。

 扉が勢いよく開き、スタッフや関係者が駆け込んできた。

 「高城奏希さん!? しっかりしてください!」

 医療スタッフが呼ばれ、彼は担架に乗せられて運ばれていく。

 律歌は、その光景をただ呆然と見つめることしかできなかった。

 ついさっきまで、隣で笑っていたのに。

 一緒に音を奏でていたのに。

 ――どうして?

 胸が締めつけられる。

 「奏希さん……」

 震える声で名前を呼ぶ。

 けれど、返事はなかった。
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