最後の旋律を君に
 遠ざかる救急車のサイレンが、まだ耳の奥にこびりついている。

 響歌たちと病院へ駆けつけたとき、夜の空気はひんやりと冷たく、律歌の胸の奥に広がる不安をますます募らせた。

 「奏希くんは!?」

 受付で必死に尋ねると、看護師が落ち着いた声で答える。

 「先ほど運ばれてきて、今は検査を受けています。ご家族の方ではありませんか?」

 「いえ、友人です。でも……!」

 「申し訳ありませんが、今はまだ面会できません。落ち着いてお待ちください」

 ――落ち着いてなんて、いられない。

 隣で両親も不安そうに顔を曇らせ、響歌は唇をぎゅっと結び、鈴子は落ち着かない様子で手を握りしめていた。

 病院の白い廊下が、息苦しいほどに静かだった。

 しばらくして、奏希さんの執事が足早にやってくる。

 「奏希様は……現在検査中です。大丈夫ですから、どうかご心配なさらず」

 大丈夫。

 本当に?

 律歌は、無意識に拳を握りしめる。

 何もできない自分が、悔しかった。

 「律歌……」

 響歌がそっと声をかける。

 「……私、まだ何も聞いてない。奏希さんの本当のこと、何も……」

 律歌の声は、かすかに震えていた。

 ずっと近くにいたのに。

 大切な人の苦しみに、気づきもしなかった。

 そのとき、病室の扉が静かに開く。

 「お見舞いの方、少しだけなら……」

 看護師の言葉に、律歌の心臓が大きく跳ねる。

 迷うことなく、一歩を踏み出した。

 そこには、静かに目を閉じた奏希さんの姿があった。
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