最後の旋律を君に
休日の朝、律歌は少し早めに目を覚ました。今日は響歌と久しぶりに二人で出かける日。
ショッピングなんて、いつぶりだろう。幼い頃はよく手をつないでデパートを歩いたのに、いつの間にかそういう時間は減っていた。

 「楽しみだな……」

 そう呟きながらクローゼットを開け、服を選ぶ。カジュアルすぎず、でも動きやすい格好がいい。白いブラウスに淡いブルーのスカートを合わせると、控えめながらもどこか華やかに見えた。

 身支度を整え、リビングに降りると、響歌がすでにソファに座ってスマホをいじっていた。

 「おはよう、響歌」

 「……おはよ」

 ちらりと視線を上げた響歌は、律歌の服装を見ると、少し驚いたような表情を浮かべた。

 「なんか、気合入ってない?」

 「そうかな? せっかく久しぶりに出かけるし、ちょっとオシャレしてみようかなって思って」

 律歌が微笑むと、響歌は「ふーん」と言いながらも、どこか満足げにスマホの画面を閉じた。

 「じゃ、行こっか」

 ◇◇◇

 電車に揺られながら、二人はショッピングモールへ向かった。休日とあって、若い人たちや家族連れで賑わっている。

 「どこから見ようか?」

 「とりあえず、服見ようよ。新しいコートが欲しいんだよね」

 響歌の言葉に頷き、二人は人気のセレクトショップへ向かった。
 店内は季節の変わり目ということもあり、秋冬物のコートがずらりと並んでいた。

 「これとかどう?」

 律歌は響歌の肩にキャメルカラーのウールコートを合わせてみる。

 「うーん、悪くはないけど……もうちょっと長めのがいいな」

 「じゃあ、これは?」

 律歌が差し出したのは、ダークグリーンのロングコート。響歌は腕を組みながらじっと見つめ、やがて試着室へと向かった。

 「どう?」

 カーテンを開けて姿を見せた響歌は、コートを羽織った姿が驚くほど似合っていた。

 「すごくいい! 大人っぽいし、響歌にぴったりだよ」

 「そ、そう? じゃあ……これにしよっかな」

 珍しく素直に律歌の意見を受け入れる響歌を見て、律歌は思わず嬉しくなる。

 その後も、二人はアクセサリーショップを覗いたり、カフェで休憩を取ったりしながら、楽しい時間を過ごした。

 「律歌も何か買わないの?」

 「うーん、今日は響歌の買い物を手伝うつもりだったし……」

 「せっかくだし、何か買いなよ。……あ、じゃあ、あそこのお店行こ」

 響歌は律歌の腕を引っ張り、可愛らしいワンピースが並ぶショップへと入った。

 「律歌、こういうの好きそうじゃない?」

 響歌が指差したのは、淡いラベンダー色のワンピース。
 シンプルなデザインだけど、袖口にレースが施されていて、上品な印象を与える。

 「かわいい……けど、似合うかな?」

 「絶対似合う! 試着してみなよ」

 響歌に押され、律歌はおそるおそる試着室へと向かった。

 「お待たせ……」

 カーテンを開けると、響歌は一瞬目を見開き、次の瞬間に大きく頷いた。

 「やっぱり似合ってる! そのまま買いなよ!」

 「そんな即決……」

 律歌は苦笑しつつも、響歌が自分の服を褒めてくれるのが嬉しくて、そのワンピースを買うことに決めた。

 ◇◇◇

 買い物を終えた二人は、ショッピングモールの屋上にあるオープンテラスのカフェに立ち寄った。

 「たまにはこういうのもいいね」

 ホットチョコレートを飲みながら、律歌はぽつりと呟いた。

 「何が?」

 「響歌と二人でお出かけするの」

 「……まぁね」

 響歌は照れくさそうに視線を逸らしたが、その横顔はどこか嬉しそうだった。

 「また、こういう時間作ろうね」

 「……そうだね」

 小さく微笑んだ響歌の表情を見て、律歌は心の底から今日この時間を作れてよかったと思った。

 冷たい風が吹く中、姉妹の絆は確かに深まっていた。
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