人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます
 まりえさんは私に向けていた視線とは打って代わり瞳にハートマークを浮かべているようだった。
「カルテの内容が間違っていただろ? 修正してほしいとお願いしていたが、どうなってる?」
「あぁ……えっと、あれ? 山井さんにお願いしたと思うけど、ちゃんとやってなかったの?」
 身に覚えないことをいきなり言われて私はびっくりして目を大きく見開いた。
 でも話を合わせろと無言の圧力をかけられている気がする。
 私は昔から人の心に敏感で、自分の意見を言えないところもあった。そして今は特にこの場所所の中で一番下っ端なので、なおさらだ。
「……そうでしたね。申し訳ありません」
 立ち上がって宍戸ドクターに頭を下げる。
 何度かこうして身に覚えのないミスをなすりつけられたことがあった。こういう業界では先輩の失敗を後輩が謝るものなのかもしれないとすら思うようになっていた。
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