人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます

　ゆっくり食べて二時間が過ぎ、私はお手洗いに行く。鏡を見て口紅を塗り直す。
　宍戸ドクターと一緒に過ごした時間はキラキラと輝いていて私はアウェイな世界かと思っていたけれど、彼が作り出してくれる空気感は居心地がよかった。
　職場ではクールで厳しい印象だったが、こうしてプライベートで話をしているとすごく印象がいい。まだ離れたくない。
　そんな気持ちで戻った。会計を済ませようとするとすでに終わっていたようで入口の人たちに見送られた。
　エレベーターに乗って私はお札を出そうとすると止められる。
「今日はお礼だって言っただろう？」
「しかし……」
「美味しかったって思ってくれたらそれでいいんだ」
「本当にありがとうございます。ごちそうさまでした」
　一階に到着しエレベーターから降りた。明日からまた現実に戻ってしまう。寂しい。そんな気持ちが胸の中を支配していく。