成瀬課長はヒミツにしたい【改稿版】
「うわ……酷い顔」

 真理子は、ガラスに写った自分の顔を見てため息をつく。
 昨日は一晩中泣き明かした。
 涙と一緒に自分の成瀬への気持ちも、すべて流れて忘れてしまえばいい。
 そう願っていたが、瞼に浮かぶのは成瀬のほほ笑む顔だけだった。

 ――最初から、わかってたことじゃない。柊馬さんの態度は、ただ単に私が家政婦のパートナーになったからだって。

 真理子は買ったばかりの、冷たいペットボトルを自分の目元にあてる。

「おはようございます……」

 下を向きながらフロアを抜け、奥のシステム部のデスクへと向かった。
 ふと目に飛び込んできた卓也の姿に、真理子は一瞬「あれ?」と違和感を感じる。
 でも次の瞬間、昨日の出来事の気まずさを思い出し、そのまますっと隣に腰かけた。

「おはよう。昨日、居残りだったんでしょ?」

 真理子は正面を向いたまま、小さく声をかける。
 隣で卓也の肩がビクッと動くのが、目線の端に映った。

「え……?」

 真理子は思わず、卓也の顔を振り返る。

「いえ……もう、帰ります」

 卓也は取り繕うように小さく答えると、手早くパソコンをシャットダウンした。
 卓也も気まずさを感じているのだろうか?
 いつものような明るい雰囲気は、完全になりを潜めている。
 真理子が遠慮がちに様子を伺っていると、卓也はその視線から逃れるように急いで席を立った。

「昨日はすみませんでした。冗談がすぎました」

 真理子にそれだけ告げると、卓也はタイムカードのある方へ足早に向かった。

「え……?」

 真理子は眉をひそめながら、フロアを出ていく卓也の背中を見送る。

「全然、冗談って顔じゃないけど……」

 いつになく深刻そうな表情で出ていく卓也の姿を見送りながら、真理子は頭をふるふると横に何度も振った。
 昨日から、一度に色んなことが起こりすぎて、心がついていかない。

 ――まぁ……失恋のショックが一番大きいけど。

 真理子は腫れぼったい瞼を押さえながら、深くため息をついた。
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