ONE NIGHT BATTLE
『楽しく飲める顔見知り』という関係性は破綻した。
こんなにタイプの男に口説かれて、誘われて。
楽しんでしまえばいいんじゃない?拒絶せずに受け入れるのもアリじゃない?
どうせ向こうもワンナイトしか望んでない。連絡先すら聞かれていない。
ただ楽しんで、後腐れなくサヨナラだ。
羽目を外してやる。
私にだって、どうしようもなく人恋しい夜もある。
「河上ほんとごめん、もうちょっと飲んでいくから先帰って」
悠の手の力が弱まり、手首が解放...はまだ。引き続き捕まったままだ。
河上の表情が陰る。「ごめんね」と表情とジェスチャーで伝えると、「わかった」と苦笑いしてカバンを手に持った。
「ここは私に払わせて。ごめん。このわがままな顔見知りのせいで」
「いいよ。まあ俺ら入社以来の長い付き合いだし、週5で1日8時間以上一緒にいるし、昼も一緒に食べてるしな。また飲み行こうな。言ってた映画もな」
「うん、また月曜。おつかれ、気をつけて帰って」
「笑顔ですっげえマウントだなおい」
悠の発言は無視だ。
せめてもと、店の外まで見送る。月城の終電何時だから5分前にはホームにいてとか、心配だから家着いたら連絡してとか、保護者のようなことを言う河上に笑顔で手を振った。
その私の横を悠がすり抜け、河上を追いかけ声をかける。
悠がこっちを振り返り「あっち行け」と追い払う仕草。は?帰るぞ。
あいつムカつく。鼻毛が1本出てたらいいのに。スラックスのチャック壊れればいいのに。
カウンターに戻って悠を待つのも癪で、カバンを持ってパウダールームに移動した。
メイクを確認して、リップだけ塗り直して髪の毛を整える。髪の毛を耳にかけ、悠に触れられた感触が蘇り、熱を持つ。
鏡の中の自分と目が合う。
弄ぶくらいの気持ちでいなきゃ飲まれるぞ。